ハーレーダビッドソンエボリューションの歴史

ハーレーダビッドソン
エボリューションの歴史

June 26th, 2016

1903年の創業以来、耐久性に重きを置いてきたハーレーダビッドソン。しかしAMFのショベルヘッドの時代に雑な設計管理を行ったことで、世間から耐久性に疑問が持たれるようになった。そこで原点に立ち戻り産み落とされたのが、このエボリューションエンジンなのである。ナックルヘッド誕生の1936年以来続く1カムOHV形式。それを踏襲したエボリューションはその名が示すように進化したモデルなのだ。

エボリューションがブロックヘッドと呼ばれる理由と、
製造されていた期間は?

エボリューションも他のエンジン同様に別の呼び名がある。それがブロックヘッドで、この名前はロッカーボックスが3つの四角いブロック形状のパーツを積み重ねて構成されていることに由来。製造された期間は、1984年~99年までの15年間。

エボリューションの誕生からそれぞれのモデルが誕生した年は?
また、メカニズムの大きな変更点は?

1984年から99年までの、代表的なモデルの流れは大きく分けて以下の5つとなる。

1984年 リアサスペンションをフレーム底部に収納した構造の、ソフテイルフレームがエボリューションエンジンに採用される。初代モデルはFXSTで、カスタム度の高いスタイリングから人気を博す。
1986年 FLSTヘリテイジソフテイルが販売開始。パンヘッド時代の1949年ハイドラグライドのスタイリングを反映させた外観で当時のライダーたちを瞬く間に魅了した。
ビッグツインモデルのエボリューションは1984年にデビュー。一方、スポーツスターは2年後の1986年に登場した。
1988年 スプリンガーフォークが装着されたFXSTSスプリンガーソフテイルが発表。1948年のFLモデル(ヨンパチ・パンヘッド)以来、実に40年振りにスプリンガーが標準採用となった。
1990年 前後ディスクホイールという特徴的なルックスを持ったFLモデル、FLSTFファットボーイがリリース。外装のみでなくフレームまでもシルバーで塗装され、エンジンのロッカーボックス、ダービーカバー、タイマーカバー、イグニッションスイッチの4箇所にイエローカラーが用いられアクセントになる。
1991年 FXRフレームを改良したダイナグライドフレームが作られ、この年にダイナシリーズがデビュー。ショベルヘッド時代の名作スタージスが、エボリューション版FXDBスタージスとして限定販売。その後、1993年にはFXDWGワイドグライド、FXDLローライダーなどの人気車もラインナップに加わる。

代表的なメカニズムの変更点

メカニズムの改良は毎年マメに行われたが、主な変更は以下のとおり。

1985年 カラカラカラッと乾いた音が特徴的な乾式クラッチから湿式クラッチを採用。エンジンについては、シリンダーヘッドからクランクケースまでを1本のスタッドボルトで貫通。これにより剛性アップと、オイル漏れを防止している。
1990年 純正でケイヒン製CVキャブレターが採用される。低速から高速域までの加速をスムーズにカバーする負圧式。
1993年 クランクケースの内圧を逃がす仕組みの、新しいブリージングシステムを取り入れる。
1995年 CVキャブレターに代わり、現代的なフューエルインジェクション(EFI)が導入される。
目次

XR750のレースシーンで得たノウハウを投入

ハーレーダビッドソンの技術レベルは年々向上していた。そして役員や設計陣は、XR750が活躍するレースシーンにおいて、エンジンはオールアルミが最も優れたパフォーマンスを発揮することを熟知していた。そこで遂に、そのノウハウが市販モデルにフィードバックされることになる。

1972年から続くオールアルミ・エンジンのXRの技術が、ビッグツインモデルに投入されることになったのだ。ショベルヘッドまで採用されてきた鋳鉄シリンダーをオールアルミ製に変更し、それに対応するようにクランクとクランクケースの耐久性を3倍近くまでアップ。また、開発においても実に慎重な作業の運び方をした。

それは日本車の開発スタイルを参考にしたもので、トータル10万km弱の走行テストと、フルスロットルの耐久度をチェック。それまでの「ハーレーは壊れやすい」という悪しきイメージを払拭するために、開発陣は徹底したテストを行っていたのである。そうして誕生したニューエンジンこそがエボリューションなのだ。

EVOLUTIONエンジンの幕開け

1984年 リジッドフレームルックのソフテイルが誕生

1984 FXST
1984 FXST

新型エンジンの登場のみならず、車体も新開発されたエボリューションモデル。このモデルにかける開発陣の並ならぬ情熱は、遂に1984年に世に発信された。まず、エボリューションエンジンを搭載した第一弾のモデルとして発表されたFXSTは、リアサス付きでありながら1957年まで生産されたリジッドフレーム(=ハードテイル)の外観を思わすスタイルで50年代の雰囲気を演出した。

肝心のサスは、スイングアーム方式で車体の底部という見えない箇所に2本配置。そして外観は、FXWGワイドグライドを彷彿とさせるカスタムバイク風に仕上げている。フロントは21インチホイールでリアは16インチ。リアフェンダーにはファットボブフェンダーを装着し、ノーマルの状態ですでにファンの心を鷲づかみにするフォルムが与えられた。更に走行性も高く、ゼロヨン(0-400m)でのテストデータでは14秒台を記録。これはショベルヘッドと大して変わらないものだったが、100km/h以上の高速域でその差は歴然だった。

エンジン積み替えがラクだったFLT用モデル

車体のエンジンマウント部については、ショベルヘッドから寸法に大きな変更はない。そのため新設計のシャシーのみでなく、それまでのフレームに新エンジンのエボリューションを搭載することも可能だった。

リリース時の1984年型で言えば、FXRSローグライド、FXRTスポーツグライド、FLTCツアーグライド、FLHTCエレクトラグライド、FXRPポリス、FXRDGディスクグライドなどがそれに当たる。つまり、これらの車体ベースは1980年に発表されたFLTのラバーマウント用を採用していたが、互換性があったためエボリューションエンジンの積み替えが比較的ラクだった。そのためこれらのモデルはエボリューションエンジンの発表後、早い段階でリリースされたのである。

その中でもFXRPポリスは、KAWASAKIとCHP(=カリフォルニア・ハイウェイ・パトロール)用の入札を競っていたので、それに間に合うように製作する必要があった。そして、旧シャシーと新エンジンの互換性の高さから入札に間に合ったばかりでなく、1984年から計4度も落札することが出来たのである。

1988 FXRT
1988 FXRT

ちなみにこのFXRPのベースとなったのは、FXRTスポーツグライドで、ショベルヘッド時代の1983年からあるモデル。これは日本では人気のなかったスーパーグライドにエアロフェアリングを装着、そして前後にアジャスタブル式のエアサスを装備して、ツーリング用のサドルバッグが付いたモデルであった。

5速ミッションとベルトドライブ化

1985年 4速から5速ミッションへ

この年になると、ビッグツインモデルの全車にエボリューションが搭載された。トランスミッションは、1958年から続いたグライドフレームのFXSBローライダー、FXWGワイドグライドは4速仕様に。FXEFファットボブ、FXRSローグライド、FXRCローグライドカスタムが新たに5速仕様に加わり、二次駆動にチェーンではなくベルトドライブが採用されたのもこの時である。

1986年 チェーン採用のFXRシリーズ

当初リリースされたFXRシリーズの4モデルは、どちらかと言うと高級車という扱いであった。しかし、量産体制が整ったこの年にFXRスーパーグライドが新たにラインナップ。それを受けて、それまでの高級車扱いから一転して低価格策を打ち出した。コストダウンを計り、駆動系をベルトではなくチェーンを採用したのもこのFXRシリーズのみである。

1987年 スポーティな走りを実現するFXR系

1987 FXR
1987 FXR

駆動系をチェーンから他のモデル同様にベルトドライブへ変更し、国内仕様はスポークホイールとなった。価格も更に下がり、140万円弱となる。限定車のFXRSスポーツエディションがこの年よりFXRS-Sとしてレギュラーモデルとなる。フロントはデュアルディスクブレーキで確実な制動力を誇り、FXRSよりも地上高を20mm高くとることで、よりスポーティな走りが楽しめるバンク角を確保した。当時日本では、FXR系のフレームが国産車みたいだということで人気がなかったが、海外ではライディング性能の高さから注目を集めていた。

1989年 価格の大幅な値下げ

価格は140万円から120万円まで大幅に下がった。これによりユーザー層の拡大を実現することになる。そして一方、エボリューションモデルのローライダー系は4速トランスミッションとグライドフレームのコンビネーションに強いこだわりを見せていた。

ブームのキッカケになったFLSTヘリテイジソフテイル

1986年 ハイドラグライドを踏襲したFLSTがリリース

1984年の登場時にリリースされたFXSTの人気は好調に推移。そこで1986年に、フロント・リア16インチホイールのFLSTヘリテイジソフテイルがリリースされた。全体的なサイズ感はひと回りアップしているものの、外観は1957年まで生産されたハイドラグライドを踏襲しているために、当時にタイムスリップしたかの錯覚に見舞われるほどだ。

着座位置もシート高675mmという低さを実現しているので、とにかく乗りやすいと評判だった。このヘリテイジソフテイルは、1950年代以前のオールドハーレーに憧れを持つ多くのライダーが購入したことで、ハーレーブームのキッカケになったとも言われている。そして、1987年になると限定モデルが登場。フェアリングやパッシングランプ、サドルバッグ、バッグレストなどが装備されて生産台数も倍増した。

1987年はローライダー誕生10周年

オールドハーレーに憧れを持ったライダー達によるFLSTの人気を受けて、FLHSエレクトラグライドスポーツがリリース。このモデルは1977年のショベルヘッド時代に、デュオグライドの再現車として限定版で販売されたものに端を発する。当時はスクリーンフェアリング、2イン1マフラー、ダブルシートなどでまとめられていたが、なんとそのスタイルで今回もまた再現されたのである。

そして、この1987年にはローライダー誕生10周年を記念した、FXLRローライダーカスタムもリリース。タンクロゴに1977年当時のものを復刻したことで話題に上がった。車体についても、FXRSをベースにしていたがローライダー系では初めてフロントに21インチホイールを装着。リアにはFXSTCソフテイルカスタムと同じく16インチホイールを付けて、ベイエリアスタイルのハンドルバーにメーターがマウントされるなど、カスタムモデルならではのオリジナリティ溢れたモデルとなっていた。

1988年にスプリンガーソフテイルがリリース

1988 FXSTS
1988 FXSTS

88年モデルからエンジン内部の仕様がアップデートされた。大きな変更点はカムシャフトで、それまではカリフォルニア規制のCカム(リフト量10.5mm)、その他の州用のVカム(リフト量11.7mm)が採用されていたが、双方共に高性能なLカム(リフト量12.26mm)に統一された。また、ラインナップにも変動があり、高級ラインのFLSTCヘリテイジソフテイル・クラシックがレギュラーモデルに加わり、廉価版のFLSTと2モデル体制となる。

そして意外なことに、売り上げ的には高価なFLSTCの方が上であった。一方、FXR系のモデルも改良が加えられ、フロントフォークの剛性強化を計りφ35からφ39へチェンジし、ステム部はアルミ製にグレードアップ。このフロント回りは前年のFXRS-Sローライダー・スポーツエディションに採用されたもので、そのクオリティの高さから全車に装着されることになる。

1988年は他にも注目すべきモデルが発表となった。それが、FXSTSスプリンガーソフテイルだ。このニューモデルは、1936年のE系ナックルヘッドから1948年のパンヘッド・ファーストモデルまで続いたスプリンガーフォークを、最新のテクノロジーで設計・開発したものであった。

フロント21インチホイール用に専用設計となったスプリンガーは、当時のスタイルを生かしつつも十分な容量を確保した油圧ダンパーを装備。そしてストローク量は130mmと長く、それまでのスプリンガーとは比べものにならないほど機能性が向上されている。また、テレスコピックタイプのソフテイルモデルが86mmのストローク量であったことからもその機能性の高さが分かるはずだ。

1989年はFXRSコンバーチブルが限定生産

この年のモデルは、エンジンの改善が更に進んだ。名作XR750と同じフライホイールとピニオンシャフトが一体となった削りだしのパーツにより、気になる振動を極力抑えることに成功。また、灯火類が多く、派手な演出を可能にしたFLTCU、FLHTCUといったクルーザー系に新たに加わったU(ウルトラ系ゴージャスモデル)により、交流発電機も32アンペアまで強化。

消費者ニーズをつかむために、実験的に300台弱限定生産されたFXRS-CONVコンバーチブル。これは結果的に高い反響を得たため、翌年レギュラーモデルとしてラインナップに加わることになった。このコンバーチブルのベースとなったのはFXRS-SPで、特徴としては工具を使わないでワンタッチでアクセサリーパーツを外せるデタッチャブル仕様だったことだろう。ポリカーボネート製のウインドシールドやフェンダーレールに取り付けるサイドバッグなどがそれで、これらは現在のモデルにも脈々と受け継がれている。

1990年 シュワルツェネッガーモデルのFLSTFが登場

1990 FLSTF
1990 FLSTF

エボリューションエンジンは常に進化を遂げる。エンジン内のドライブシャフトは新型のクランクに一体化されることで、振動が昨年以上に低減された。キャブレターには大径の40mmケイヒンCVキャブを標準装備。そして駆動部位のクラッチ径は、スポーツスターモデルに合わせた新しいサイズのダイヤフラムとなった。

この年で見逃せないのが、登場するや否や人気に火がついたFLSTFファットボーイだ。映画ターミネーター2で俳優アーノルド・シュワルツェネッガーが乗っていたバイクと言えばピンと来る人も多いだろう。このモデルはそれまで不動の人気を誇っていたFLSTのカスタム車という括りで鳴り物入りでデビュー。1990年型のみ外装はおろかフレームに至るまでがシルバーカラーとされ、ハンドルはFLH仕様のワイドタイプ。ハーレー初の前後ディスクホイールにショットガンマフラー、そしてエンジンのロッカーカバーにイエローのカラーラインが入るなど、カスタムテイスト溢れたモデルだった。

こうした人気モデルの登場により、この年のソフテイルモデル全体の売り上げはビッグツインの全生産台数4万4000台のうち、半分以上の2万4000台を占拠。その後のハーレーブームを巻き起こす大きな要因のひとつとなったのである。

ダイナモデルとFLモデルの進化

1991年 ダイナグライドフレームに由来

1991 FXDB
1991 FXDB

エボリューションエンジンの改善は毎年のように行われた。この年、ガスケットを強靭な新素材のケブラー&グラファイト製に変更し、トランスミッションの各部位も耐久性の向上を計り見直しが進められた。また1991年は、エンジンを2点のラバーマウントとした限定車FXDBスタージスが復活した年でもある。

スタージスと言えばショベルヘッド時代にウィリー・Gが手がけた名作。その名を冠したモデルがエボリューションで登場したということで、注目度は高かった。ブラックアウトされたエンジンをマウントする新開発のダイナグライドフレームは、ハーレー初のコンピューター設計。最新鋭の技術を投入したこのフレームは、エンジン振動を吸収するものだった。ちなみに、ダイナモデルの名称は、それまでのFXRフレームを改良したこの1991年誕生のダイナグライドフレーム名に由来しているのを覚えておこう。

1992年 全世界で限定販売

1992 FXDB DYNA DAYTONA
1992 FXDB DYNA DAYTONA

全世界で1700台限定でFXDBダイナデイトナと、FXDCダイナグライドカスタムがリリースされた。

1993年 ウェバー・マレリ製FIを採用

FXDWGワイドグライド、FXDLローライダーがレギュラーモデルにラインナップ。しかし本格的に量産体制が整ったのは2年後の1995年以降であった。また、この年のモデルにはイタリアのWEBER MARELLI(ウェバー・マレリ)製のフューエルインジェクションを限定的に装備。

1993 FLHTCU-I
1993 FLHTCU-I

それまでACCEL(アクセル)製などのアフターパーツは多々あったが、純正として社外品を採用するのはこれが初であった。このウェバー製のフューエルインジェクションは、アメリカ本土仕様のFLHTCU-Iのみに試験的にセット。その実力を検証していき、成果に納得した上で他のニューモデルにも採用していった。

1994年 FLHRロードキングが発表

FL系のクルーザーモデルも開発が進められる。この年はFLHSを改良したゴージャスバージョンとしてFLHRロードキングが発表。60年代のヘッドライトナセルの形状に倣ったフロントマスクによりクラシックテイスト溢れるものだった。また、前モデルのFLHSではメーター類がハンドル部分にあったが、それをタンクの中央に集約。随所に使われたまばゆい輝きのクロームパーツや、デタッチャブル式のウインドシールド、デュアルエキゾーストなど、まさにロードキングの名に相応しい質感と仕様が与えられていた。

1995年 フューエルインジェクションの台頭

モデル名の後に『I』が付く、フューエルインジェクションを採用。それ以降、翌年96年に発表されたロードキングFLHR-Iと、それまでのキャブレターモデルのFLHRとは明確に分けられた。

1997年 ヘリテイジ・スプリンガーがデビュー

1988年発表のFXSTSソフテイル・スプリンガーに遅れること9年。FLSTSヘリテイジ・スプリンガーがデビュー。スプリンガー自体の完成度はソフテイル版と同じだが、フロント16インチのFLモデルに合わせたサイズ調整が施されている。外観は豪華絢爛で、ホーンやフェンダーチップ、トゥームストーン型テールライト、ゴールド・シールバーを駆使したタンクエンブレムに始まり、クロームパーツのオイルタンクやマフラー。更に、専用タイプとなるフリンジ付きシートとサドルバッグなど、これでもかと言うほどの仕様が与えられた。

1998年 本国のみでロードグライドが発売

2眼ヘッドライトが特徴的なFLTツアーグライドが大幅に改善され、ロードグライドの名で心機一転してデビュー。アメリカ本国のみでの発売となったこのモデルは、最大の個性となるフロントマスクのデュアルヘッドライト内蔵フェアリングはそのままに、細部を見直すことで洗練さに磨きがかかる。ロングランに適したモデルとして人気を博した。

1999年 エボリューションエンジンの終焉

エボリューションエンジンの最終年として、1984年の登場から15年間愛されたエンジンは、次世代のツインカム88エンジンにバトンを渡すことになる。