ハーレーダビッドソンV-RODの歴史

ハーレーダビッドソン
V-RODの歴史

June 24th, 2016

ハーレーダビッドソンが遂に、水冷のモデルをリリースした。その名もV-ROD(ブイ・ロッド)。DOHC(ダブル・オーバー・ヘッド・カム)の60度V型エンジンを搭載するまったく新しいモデルの登場である。レースシーンからフィードバックしたというスピードフォルムは、フロントエンド(フロント周り)を前方に引き伸ばしたドラッグスターを思わすロー&ロングのスタイリング。ここでは2002年の発表と同時に、多くの反響を得たV-RODの詳細を追ってみる。

V-RODのニックネームと、製造期間は?

歴代エンジン同様に、V-ROD(ブイ・ロッド)にも『レボリューション』という別名がつけられている。これは、『革命』を意味する言葉で、水冷DOHCエンジンは文字通りハーレーダビッドソンにとっての革命的エンジンであった。しかし、レボリューションの呼び名は浸透せずに、V-RODの名で広く認知されている。

V-RODの誕生は2002年で、以後、現在(※2016年)に至るまでレギュラーでモデルラインナップに加わっている。

ポルシェとの共同開発というのは一部分ではなく全部?

全部ではない。狭角60度・水冷DOHCエンジンに関してのみ、共同で開発している。かつてのワークスレーサーVR1000のエンジンをベースにしており、ポルシェからは水冷エンジンの技術的ノウハウを学び、ハーレー側で開発を行った。

目次

水冷エンジンV-RODの登場

水冷エンジンV-RODの登場

2002年に新設計のDOHCモデルが登場

ハーレーダビッドソンの創業は1903年。そしてエンジンは、オホッツバルブ、サイドバルブ、OHV(オーバー・ヘッド・バルブ)と続いて現在に至っている。また、カムについても1カム、4カム、2カムといった具合にエンジンごとに個数は異なっている。

モデルの登場はナックルヘッド以来となるので実に66年ぶりである。そのV-RODは、エポックメーキングなモデルとしてハーレーファンのみならずバイクファン全般に衝撃を与えることになった。

空冷ではなく水冷エンジンの登場には、当然賛否両論あった。「空冷でなければハーレーではない」と考える人は多く、当時ハーレーファンからの支持を集めるのは容易なことではなかったのだ。とは言え、「空冷でなければ」と考える根強いファンがいたからこそ、高性能かつ安価な日本製バイクが市場シェアを獲得しても、本国アメリカではハーレーダビッドソンがその座を奪われることなく生き延びてこれたのである。

そうした事実を踏まえれば、V-RODの誕生が非常に難しい扱いであったのは簡単に想像できる。しかし、そもそも1984年に登場したエボリューションエンジンは「エボバッシング」なるものを受けていたし、1999年のツインカムもまたそれは同じこと。つまり、ニューモデルにはこうした否定的な扱いが必ずあるわけだから、何も悲観的になることなどはどこにもないわけだ。

革新的DNAを受け継いだ次世代バイク

ハーレーダビッドソン陣営は、V-RODの発表と同時に様々な批評にさらされることなどは百も承知であったはず。その上で、並ならない『覚悟』のもと66年ぶりに会心のエンジンを発表することになったのである。

今でこそ懐古趣味的要素も併せ持ったメーカーとして知られるが、かつてのハーレーダビッドソンはどのメーカーよりも革新的なバイクメーカーであった。そう、懐古趣味などとは無縁だったのである。少なくとも1930年代後半~60年代前半のナックルヘッドやパンヘッドの時代には、世界中を見渡しても屈指のテクノロジーを誇っていた。しかし、その後どこで間違ったのか次第に「古いだけ」が魅力のメーカーに成り下がってしまったのである。

とは言え、それはそれで多くの懐古ファンから支持を集めるわけだが、本来ハーレーダビッドソンは懐古趣味に甘んじることなど決してない革新的なバイクメーカーだ。そのため、このV-RODは新しいことに果敢にチャレンジするハーレーの、純然たるDNAを受け継いだ次世代バイクだと言えよう。

V-RODの車両スペック

ポルシェと共同開発した水冷エンジン

フレームはスチールパイプを使った『ハイドロフォーム・ペリメーター・フレーム』で、剛性の高さや軽量化などのメリットを持つ。そして、狭角60度・水冷DOHCエンジンはあのポルシェと共同開発して誕生したものだ。ちなみに、誤解してはいけないのは、V-RODはあくまでもこれまでのラインナップのひとつに加えられたもので、将来的に空冷エンジンに換わるモデルとして発表されたものではないということ。

一般的に、今までの空冷から水冷エンジンを手がけたとなると、将来を見据えた結果、今後主軸とすべきニューモデルだという印象を与えがちだが、ことハーレーに関してはまったくそういう意図はなかった。なぜなら、ハーレーダビッドソンは年々厳しくなる環境保護に対する排ガスなど諸々の規制に対しては、これまでの空冷エンジンで十分クリア可能だと絶対の自信を持っていたからである。だからこそ、水冷エンジンのV-RODはことさら特別扱いされることなく、ソフテイルやダイナなどの各ファミリーのひとつとして同列に扱われたのだ。

V-RODのシリーズはVRSCの表記となっている。そしてVRSCAと、末尾にAが付くのはファーストモデルである。また、これまでエボリューション、ツインカムなど各エンジンそれぞれに呼び方があったように、V-RODにも『レボリューション』という名が与えられた。

H-DレーサーのVR1000をベースに設計

H-DレーサーのVR1000をベースに設計

この水冷DOHCエンジンだが、実はかつてのH-Dレーシングマシン、VR1000のエンジンをベースに設計されたものだ。一体鍛造となったおむすび型のクランク、上下に別れたクランクケース、オイルタンクを持たないドライサンプ方式など、これまでのハーレーのメカニズムとは根本的に違っていた。

また、前後それぞれのヘッド上にある2本のカムシャフトはチェーンで駆動。狭角60度のエンジン真ん中にはダウンドラフトのインジェクションが装備され、通常ガスタンクとなる場所にはエアクリーナーが配置。一方、肝心のガスタンクはシート下に移行され、フレームのダウンチューブ前方にはデザイン的なポイントにもなる大きなラジエターとオイルクーラーが備えられる。

フレームは、複雑にアールを描いた形状の『ハイドロフォーム・ペリメーター・フレーム』。そして、スイングアームは驚くことに一体式のアルミ鋳造で、フロントフォークには最新の技術を投入したφ49正立フォークが装着。また、カスタムテイスト溢れた前後ホイールはフロント19/リア18のディッシュタイプとなり、エアクリーナーが配されたダミータンクと前後フェンダーの素材にはアルミが採用されている。

今の技術からすれば、何も飛びぬけたメカニズムからなるニューマシンではない。でも、その抜きん出たデザイン力により唯一無二の存在感を放っているわけだ。そう、洗練された近未来的なフォルムからなるV-RODは、これまで100年に渡りハーレーが培ってきたノウハウの集大成的な一台と言えるのである。

圧倒的な高回転型バイク

V-RODのそれぞれのパーツについても焦点を当てていこう。まず、エンジン。VR1000をベースに開発された水冷DOHCエンジンはポルシェとの共同開発となる。エンジンをフレームから下ろす際は、ボルトオン式のフレーム・ダウンチューブを取り外して行われる。マフラーは、エンジン下でひとつに集まり、その後再度2本に分かれる『2in1in2』。

フレーム・ダウンチューブに付く特徴的なシュラウド。このアルミ製のシュラウドでラジエターとオイルクーラーをカバード(覆う)する。初の水冷エンジンのため、同じくラジエターの装備も初となる。タンクの設定が面白い。本来のガスタンク部分は実はエアクリーナーボックスになっている。ガスタンクはシート下に隠されて、4ガロン(15.1リットル)の容量を確保。

最後に、レボリューションエンジンのスペックだが、2002年当時、他社のバイクに引けをとらない仕様が与えられていた。ボア・ストロークは100mm×72mm、排気量1130cc。最大トルクは10.21kg-m / 7000rpm。参考までにTC88Bのトルクは11.7kg-m / 3000rpm。エンジン回転数の違いが顕著なのが分かる。つまりV-RODは、圧倒的に高回転型のバイクであったのだ。