SR400/500の歴史LAST

SR400/500の歴史(1988-2010)
キャブからFIへ

June 21st, 2016

SRほど長い間たくさんのファンに愛されているモデルも珍しい。これまで多くのマイナーチェンジを繰り返してはきたが、1978年のデビュー以来、『シングルスポーツ』としての基本設計は変わっていない。ここでは、歴代モデルの中でもトップを争うほどのセールスを記録した1988年モデルから、SR史において最も大きな変更となったFI(フューエルインジェクション)化までの流れを見ていこう。

キャブからFI(フューエルインジェクション)化されたのはいつ?

2010年モデルで変更。1978年の誕生から実に30年以上が経っての改良であった。

VM32SSキャブ
強制開閉式
・1978~1987
BST34キャブ
負圧式
・1988~2000
BSR33キャブ
負圧式
・2001~2009
・排ガス対策が施された。
FI(フューエルインジェクション) ・2010~

スポークからキャストホイールに変わったのはいつ?

1978年の登場後すぐの翌年、キャストホイールに変更。その後の変遷は下記の通り。

スポークホイール ・1978
キャストホイール ・1979~1982
スポーク・キャストホイール ・1983
・この年からスポークホイールが標準仕様。またこの年ラインナップから外れたキャストホイールが限定復活。
スポークホイール ・1984~
目次

1988年 騒音規制に対応したエンジンと吸排気系

騒音を抑え、更に乗り味を改良

1988 SR400/500
1988 SR400/500

SR史の中でも大きなマイナーチェンジを実施した1985年以来、安定した売れ行きを見せていたSR。しかし、’88年に運輸省から市販車を対象に通達された騒音規制強化措置に対応するために、かなりのマイナーチェンジが行われることになった。

改良の最大の目的は、全ての騒音を基準値以下に抑えること。しかし、それだけでは終わらないのがヤマハである。それにプラスして、より操作性に優れたベーシックなシングルバイクへの改良が裏テーマに掲げられた。

この2つの狙いが両立されている最たるポイントが、長い間変わることのなかったエンジンと、吸排気系に見ることができる。まずカムをチェックしてみると、カムプロファイル(カム形状)の変更によりバルブタイミングがそれまでのものよりも低速寄りに調整された。そして、ビッグ・シングルバイクにありがちな中低速域でのギクシャクした乗り味を抑えたセッティングとされている。また、カムシャフト全体にバーコリューブライト処理という特殊加工を施すことで耐久性の向上も図られているのだ。

CVからVMキャブへ変更

吸排気系も抜かりはない。最大の変更点としては、キャブレターの形式変更が挙げられる。これまでは強制開閉のCVタイプ(500ccは加速ポンプ付)であったが、それに代わって今度は、負圧式のVMタイプを採用。これにより急激なスロットルワークに対しても柔軟に対応し、また、始動性とアイドリングの安定性を向上させている。特にこのモデルに関しては、フラットバルブを持ったミクニBST型キャブが使われているので、摺動抵抗が少なく、軽やかなアクセルワークを可能としている。

キャブの変更に伴ってエアクリーナー容量もアップ。2.5Lから3.7Lとされ、吸気ダクトの形状変更により吸気騒音を抑えて、湿式のウレタンフォームで空気清浄効果も実現している。こうしたきめ細かな改良で走行騒音を低減させて、操作のしやすいシングルバイクへと変貌を遂げたのだ。それによりこれまで運転に自信がなくて今一歩購入に踏み切れなかったライダーにも、すんなり飛び込める環境を用意したのである。

’88年モデルは圧巻の販売実績を持つ

SRがより多くの人に受け入れられる仕様を持ったバイクに変わっていく中で、「’85年以前のCVキャブならではの荒々しい乗り味が忘れられない」といった一部の熱狂的なファンがいるのもまた事実。これはもう、どちらが良い悪いではなく好みの問題なのでなんとも言えないが、SRの場合は幸運なことにエンジンの基本型式自体は変わっていない。なので、荒々しくスパルタンな乗り味を求めるのであれば、キャブを始めとした吸排気系をリセッティングしてパフォーマンスを追及すれば良いわけだ。

また、騒音規制の対応策として、駆動系のパーツも大きく変更された。まずはチェーンサイズだが、それまでの530からひと回りも小さく、ピッチの細かい428へとチェンジ。これにより走行時のチェーンノイズが、従来の物に比べて明らかに抑えられた。そして、フロントのスプロケットには共振から発生する騒音を防止するためにラバーダンパーを巻くことで、この周辺から出るメカノイズを完璧にブロック。このことで2次減速比が400ccの場合は2.937から2.947へと僅かにアップし、多少高速寄りにギアリングが移行している。

これら時代の流れに沿ったリファインの実施で、’88年式SRは歴代モデルの中でも群を抜くセールスを記録した人気モデルとなった。

強制開閉式VM 負圧式BST
(左)VM32SSキャブ/(右)BST34キャブ

(左)【強制開閉式VM】87年型までのモデルに採用されたVM32SSキャブ。/(右)【負圧式BST】88年型に採用されたBST34キャブ。フラットバルブ化で張り付きも防止した。

フロントスプロケット
フロントスプロケット

ゴムダンパー付きFスプロケットは騒音対策で採用。

1991年 質感を強調した細部のリファイン

塗装とバフ掛けでディテイルアップ

1991 SR400/500
1991 SR400/500

1978年のデビュー以来4回目(限定車を除いた)となるマイナーチェンジが’91年に行われた。その変更点は外観から分かるもので、まず、フロント回りのトップブリッジとアンダーブラケットがそれまでの黒塗り処理だったものから、質感を強調したガングレー塗装に変更。そして、メーター周りの存在感も高められている。

ブレーキレバーやクラッチレバー、レバーホルダーなどは、これまでのオーソドックスなブラックから、アルミバフ仕上げに変更。こうした各部位のディテイルアップが実施され、タンクについてもヤマハが得意とする、何層にもクリアを吹き付けたミラクリエイト塗装(Miracle『奇跡的な』とCreate『創造』を合わせた造語)で完成された。その美しさは目を見張るものがあり、オーナーの所有感を存分に満たすものであった。更に、シートの表皮部分を2トーンで塗り分けるなど、徹底したリファインが行われたのである。

それ以来は、外観上に大きな変更を加えることなく販売を継続してきたSR400 / 500。とは言え、’78年から’91年の間には大小様々な仕様変更が行われてきた。それは、その時々の時代背景であったり、法律の改正によるもの。あるいは、合理化を計ってのものもあるだろう。でも、その反面、わざわざSRのためだけにイチから開発し直した箇所というのも多々存在する。例えば、ドラムブレーキや3層エキパイなどがそれだ。

『硬派のビッグシングル』の歩み

SRはその誕生以来、実に多くのファンをトリコにし続けるモデルである。それがカスタムやレーサーベース、ツーリングユースであったりなど、そのニーズは多岐に渡る。しかし、ニーズはどうであれ、SRを所有するオーナーはそれぞれに自分なりの解釈をSRに持っているはずだ。それは、ハンドルを握った際にSRがアピールしてくる乗り味、つまり、一貫したコンセプトの、「硬派のビッグシングル」に対する解釈である。

おそらくそうした解釈は、シンプルなエンジンならではの特別な感覚がもたらすものであったり、そのエンジン形状だからこそのバイク全体のスタイリングだったりすることだろう。いずれにしてもSRには、シングルマシンが内包するおおよそ考えうるすべてのテイストが、奇をてらわずベーシックな状態で息づいているのである。

ガングレー塗装
ガングレー塗装

ガングレー塗装で表情を一新したトップブリッジ

従来の黒塗装
これまでの黒塗装

’91年に行われたマイナーチェンジはこうした細部のクオリティアップがメインとなった。

1993年 CDIとイグニッションコイルを一新

1993 SR400/500
1993 SR400/500

ヤマハは’93年の年間販売計画を国内合計で7000台に設定。各部位のアップデイトも次々に実施。まず、ヘッドライトは常時点灯式となり、ハザードランプを採用した。そして、今でこそ主流となったメンテナンスフリーのMFバッテリーを搭載。他にも、サイドスタンドの収納忘れを防止するアイデアありきの機構や、CDIやイグニッションコイルも最新の物に一新。大きく見ると、電装系のリファインが目立った変更箇所となった。

車体のカラー展開は、500ccがグリタリングブラックの1色で、400ccはこれとブルーイッシュブラックの2パターンが用意されて、サイドカバーのエンブレムも新しい物となった。また、タンクキャップの形状も変更し、シート端のグラブバーには積載性の向上を計り荷かけフックを増設。以後、翌年の’94年型ではタンデムベルトが廃止されたものの車体のカラーリングの変更は無かった。

1996年 余裕のあるライディングポジションの形成

1996 SR400/500
1996 SR400/500

SRの人気は加熱し続け、留まることを知らない。’96年には約9000台もの数を販売した。

バイクの変更箇所を見てみると、リラックスしたライディングポジションを生むための施策が実施された。まず、ステップ位置を従来のものから約10cmほど前方へ移動。ハンドルの絞り角も広く取ることで、長距離ランも快適にこなすポジションを実現した。

フロントブレーキのワイヤーはステンレス化され、エンジンのクランクケースボルトには樹脂コーティングが施行。こうした細部のディテイルアップを引き続き進行させた。車体のカラー展開は500ccが黒1色で、400ccは黒と銀の2色をラインナップ。また、この年はタンク容量を14Lから12Lへ縮小している。

1998年 初代’78年モデルのカラーリングを復刻

1998 SR400/500
1998 SR400/500

SRの生誕20周年を祝してこの年、期間限定車を発表した。車体のカラーリングには初代’78年の復刻版である赤(400 / 500cc)と黒(400ccのみ)をラインナップ。そして、購入した人には記念アイテムのキーホルダーとエンブレムがプレゼントされた。

この年は他にも東京限定モデルがリリース。『SR400T』と命名されたそれは、オーリンズ製フロントインナースプリングやリアショック、アクロン製の前後リムなど、スキモノには堪らない仕様が与えられ、約500台ほど準備された。

2000年 SR500のラストイヤー

2000 SR400/500
2000 SR400/500

’00年と言えば、やはりSR500ccのラストイヤーに尽きる。この年を最後に500は無くなり、以後400のみとなった。

カラーリングが変更されて、前年の黒は継続、赤が廃止となる。しかしその代わりに、新色の茶色が加わり、計2色展開とされた。また、バイク自体のメカニズムのチェンジはないが、フロントの前輪ドラムブレーキはこの年で最後となった。

2001年 ドラムから再度ディスクブレーキへ

2001 SR400
2001 SR400

世のバイク動向を見渡せば、シングルスポーツは人気がなく、軒並みカタログ落ち。しかし、その中でSRは孤軍奮闘しており、厄介とされる新排ガス規制にいち早く対応することで、なんなく21世紀を迎えた。

が、新排ガス規制に対応することはすなわち出力やパワーが落ちることでもあった。それはエンジンの左側に配されたエア・インダクションシステムと呼ばれるもののためで、この新システムの導入で未燃焼ガスを再燃焼させていたのである。また、キャブレターもパフォーマンスの下がるBSR33を使い新規制をクリア。

そして、この年の目玉となるのは、前輪ブレーキの変更だ。ファンの要望に応えたドラムブレーキから再度ディスクブレーキ1型となり、2ポットキャリパー仕様に。制動力は一気にアップして、それにともない前後のサスペンションのセッティングも見直された。

点火方式にもマイナーチェンジが実施されて、それまでのチャージコイル式からバッテリーチャージ式のC.D.I.へと移行。これはバッテリーがないと火花が飛ばないため、点火の安定化が実現した。そしてタンクキャップは、ヒンジ式から丸型の脱着式となり、タイヤ表示はインチからメトリックに変わったのである。

この辺のリファインにより、車体の販売価格はそれまでよりも2万5000円ほど上がった。ちなみに’01年の国内の販売計画は年間4000台と一時期の大ブレイクほどではないにしても、400ccの二輪市場そのものが元気を失う中でSRは上昇傾向だった。その結果、年間で4223台を売り上げ、見事に目標を達成。車体のカラーリングに再度視線を移してみると、色はすべて刷新されて、ベリー・ダークグリーン・メタリック、シルバー、ニューブラックブルーの3色となった。

2003年 盗難抑止機構のイモビライザーを装備

2003 SR400
2003 SR400

SRの発売から25周年となる’03年式モデルでは、当時多発した盗難を防ぐ、イモビライザーが標準装備された。このイモビライザーの機能は、純正のキーでなければメインキーが作動しないもので、また、例え配線を直結しても効果はない。この強固なセキュリティ対策により、盗難を未然に防ぐ最終兵器としてユーザーから期待が寄せられた。

しかし、このイモビライザーの機能は一般ユーザーではないカスタムファンにとっては若干けむたい面もあった。なぜなら、このイモビライザーが装備されることで、中の配線が複雑化し、また配線自体が切れにくくなっているからである。カスタムにおいては配線の数が少ないほどに作業効率が上がるため、逆に増えることは余計な手間が必要となってくるわけだ。

そして、それら配線を収めるメインキーシリンダー部分も従来の物に比べてかなり大きくなり、外観は不恰好になったと言わざるを得ない。更に、複雑化したがために、カスタムヘッドライトの選択肢が絞られてしまうのも問題だろう。チョッパーやカフェ、トラッカースタイルなど、様々な形が楽しめるSRではあるが、メインキーの大きさと、それまでの倍近くまで増えた配線の数はデメリットでしかない。

なので、もしSRのカスタムを考えている人は、最初からこの年式以前の物を買うのがベターだろう。年式が不明でも、見分け方としてはメーターにキーマークが付いているのですぐ分かる。これからバイクとどういう付き合い方をするのかが事前に分かっているのならば、それに沿った年式を選択するのがベターだ。

さて、仕様の変更点に話を戻そう。この年は、それまでのディスクブレーキ1型に替わり2型に変更し、TPS(スロットル・ポジション・センサー)が採用された。このTPSはスロットルの開度を瞬時に感知してそれをCDIに伝達。それを受けて、点火時期の最適化を行うものである。他にも、年々厳しくなる騒音規制に対応するため、マフラー内部の構造を一部変更している。

2010年 キャブからFI(フューエル・インジェクション)へ

2009 SR400
2010 SR400

SR史の中で最もセンセーショナルな変更が、この’10年に実施されたインジェクション化である。エンジンが欲するベストなガソリン量を送り込むことが出来るインジェクションは、燃費とスロットルレスポンスの向上を実現するものだ。

そのため、2000年以降パワーダウンしていたSRはこの年を境に、一気にパワフルな仕様へと変貌を遂げることになった。その変貌ぶりを例えるならば、’88年以降の中低速に振ったトルクフルな乗り味とほぼ同等。そしてクラッチに関しても、女性でもストレスのない軽さになるよう調整され、キックも同じく軽やかになっている。オリジナリティ溢れたバイクという存在は変わらず、誰でも気軽に乗れるSRへと更なる進化を遂げた のである。