H-D EVOLUTION 1998
WCREST
立山連峰からの
波動する自然美
富山県から全国にその名が聞こえた北陸地方の俊傑、ダブルクレスト。同店を代表するショーバイクのひとつ、『剱(つるぎ)』は、オーナーの趣向をそのままカスタムに落とし込んだ大作である。
まず、山を見るのが好きなオーナーに合わせ、コンセプトを『山』に絞り、その指針にピタリと狙いを定めて一切のディテイルが煮詰められてゆく。そこに抜かりはなく、目を凝らすほどにコンセプトに掲げた立山連峰の剱岳(つるぎだけ)に忠実な技巧の数々に舌を巻く。
「前後に23インチのでかいホイールを使って、こう起伏がある感じで山を表現したというかさ。まあタンクもそうやし、ステーとかカバーの造形とかもすべて山にまつわる樹氷とか雪に積もっとる雰囲気とか、そんなんを色々入れてデザインしてる」
その中でもたおやかに隆起するガスタンクが強烈だ。傍目(はため)にも只ならない作りが瞭然のこれは、完全な木型を作ってから初めて、鉄板での製作が進められる。しかしその木型に直接鉄板をあてがって叩き出していくのではなく、あくまでも横目に見ながら成形してゆき、その都度木型に合わせて調整を反復。その数、全6枚の鉄板から創出したセクション。
他にヘッドライトやオイルタンクのステーなども山に関係した自然美をソースとして形にし、ステップ周りは山岳のピッケルをモチーフとしてひたすらにグラインダーで削り上げた部位である。とにかく人の手が入っていない箇所はどこにもない、隅々まで手先を通じて作り手の熱気が伝播(でんぱ)した一台である。
さて、見せ場は作り物だけでは終わらない。ガスタンクやハンドル、マフラーに鉄材を使う一方で、オイルタンクやフェンダーステー、エアカバーなどにはアルミ材を使用。素材を使い分けることで意図した微妙なニュアンスをも表現する。
「簡単に言えば、鉄よりアルミの光り方の方が氷っぽいよね。コンセプトが山だからそれに合うかどうかやね。その輝きが欲しい時はアルミを使うし、でもまあそれだけじゃないよ。エンジンにも合うようにとか、あとは強度が絶対に必要な場所もあるし」
イメージする姿を打ち立て、そこへ辿り着くまでに細部を徹底的に練り上げる。決して表面のみで解釈せず、ザブンと深く潜り込んだ鬼気迫る物作りが、ビルダー斎藤さんに見られるカスタム礼式だ。
「これが最高傑作かって? まあいつも出来たものには言ってるから。これ最高やなって(笑)」
HARLEY-DAVIDSON EVOLUTION 1998 DETAIL WORK
HEAD LIGHT STAY
「このステーひとつ取ってもなんか良い感じでしょ?(笑)」。ビルダー斎藤さんの作り込みは細部に渡る。
GAS TANK
剱岳を見立てて製作。木型を作った後に鉄板6枚を使い分けて完遂。ペイントワークでも雪解けの自然美を表現。
SHIFT STAY
スイッチ類はメーター横に集約。アルミで製作したシフトノブ一体のステーも勿論、山に関係した造形から成る。
FOOT CONTROL
ワンオフのフットコントロールでは山岳のピッケルをイメージして創出。グラインダーを使い手作業で具現。
FENDER STAY
ステーにはアルミ材を使用。氷っぽい輝き方をするのは鉄ではなくアルミという判断から素材選びにも目が光る。
REAR TIRE
山の起伏を演出するべく前後に23インチホイールをセット。軽快なリア周りにより走りのスポーツ性も高い。
BUILDER’S VOICE
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