SUZUKI ST250F
A BEARD
最新で古く
粋人による風流
ポピュラーなストリートバイクではなく、スズキのST250Fをチョイスしてくるあたりに粋人の気が漂う。しかも、一旦手を入れれば待ったなしのゴリゴリのフルスクラッチ。カスタムに向かうスタンスが半端じゃないからこそ、変化球的マシンチョイスがより躍動する。
ST250F。Fはフューエルインジェクションの意味である。キャブ車ではなく、この最新のインジェクションモデルを使って逆に、ヴィンテージスタイルのバイクを作りたかったのがキッカケと言う。
「キャブセッティングの必要がないバイク。スタイルは基本的に、低くて細くて長いというところですかね。ハンドルとステップ周りはブロンズメッキ。ちょうどこれを作った5年前ぐらいに流行ってたんで取り入れてみようかなと」
スチールの上に銅をかけ、その更に上に黒をかける。結果、経年劣化で、表面と接触した部分の黒が剥がれて地の銅がジワリと浮上。この独特の風合いがなんともオツだが、このカスタムのトビッキリはそこでなく、ガスタンクだ。
タンクは中央で分割され、右側ガソリン/左側電装系という構造。ガソリンはそのまま銅のガスラインを通り、シート下に用意したもう一つのガスタンクとジョイント。そこにポンプも内蔵するため、当然配置にはかなり頭を悩ませている。
しかし、左側に集約した電装系はそれに輪をかける。インジェクションモデルのため必然的にコンピューター制御が多く、配線の数もどえらい。両手をいっぱいに広げても溢れてしまうほどの量だ。それを短くチョップして、なんと全部引き直しである。その労力も恐ろしいが、配線図を深く理解していなければとても取り掛かれない、取り掛かろうともしない作業だ。もうこの辺りで、代表上田さんがどういう人間かが飲み込めただろう。
さて、ガスタンクの他のメニューも相当だ。フレームからいってみよう。
もう誰が見てものワンメイクである。クイッとグースネック気味に突き出たシングルダウンチューブの骨格は、単体で浮くことなく、全体のシルエットで見て非凡。もちろんお家芸の強度を踏まえた質実剛健な作りは健在である。また、ハンドルにマスターシリンダーを置きたくなかったことから三つ又の裏に移設。ちょっとした外しのテクニックにも気負いがない。
おびただしい量の配線やガスタンクの移設など、アナログな他車種にはない高度な課題に敢えて挑むロマンス。辛くも嬉々として仕上げたカスタムは、まっすぐにファンの心を打つ。
SUZUKI ST250F DETAIL WORK
HANDLE
意匠を凝らした造形のハンドルをブロンズメッキ。マスターシリンダーを移設して狙い通りのスッキリ感を演出。
HEAD LIGHT
ヴィンテージのルーカスライト上にワンオフのアルミカバーを装着。三つ又裏にマスターシリンダーを忍ばせる。
GAS TANK
最大の見せ場となるガスタンク。右側ガス/左側電装系という構造。銅パイプでシート下のガスタンクに繋がる。
SIDE COVER(GAS TANK)
サイドカバーではなくここもガスタンク。インジェクションゆえ配置や構造など全てが一筋縄ではいかない。
SEAT COWL
一枚のアルミ板から叩き出しで成形したシートカウル。テールランプのボディも同じく叩き出しのワンオフ。
FOOT CONTROL
細やかな作りが現れたワンオフのフットコントロール。ブロンズメッキの経年劣化がなんとも味わい深い。
BUILDER’S VOICE
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