H-D FLSTC 1992
GREASE MOTORCYCLE

音もなく忍ばせた
作戦する玄人の手口

大枠をロングフォークチョッパーのシルエットで形成し、そこに時計仕掛け的な精巧な作りを吹き込んだ一台である。この、ソリッドなチョッパー製作だけで筆を置かないデコラティブな作風が製作者鈴木さんの術中だ。

今回のソフテイルは、20年来の付き合いのオーナーから依頼を受けたものだと言う。そこで、鈴木さんが以前から頭の中で考案していたイメージが描写されていく。

「こんなスタイルのを作りたいって絵に描いて見せたら『それにしよう！』って。で、いろいろ触っていく中でハンドシフトの所を刀にしようと思ったんですね。それで忍者をコンセプトにして忍（しのび）と名付けたんです」

骨董品屋で本物の鍔（つば）を手に入れ、それに合うように刀ルックのハンドシフトを作っていった。一方フォークは、ステンレス材を使用したガータータイプで、精度や動作、強度などに注視し、図面を起こして細部の計算を詰めた上で実作業に移行。

また、ステンレス材には万全を期して割れないよう中空ではなく無垢材を登用。それを用意しておいたジグに載せて溶接するが、鉄やアルミに比べて熱入れによる歪（ひず）みが強いため、均等に熱が入っていくよう溶接のたびに何度も順番にひっくり返していき創作された。

「まあプランジャーサスもそうですし全体のバランスもポイントですけど、チェーンラインがずれないようにするのも大変でした。これリアに200ワイドを履かせるとどうしてもずれちゃうんで、ミッションごと位置を動かして調整してます」

合わせて、ミッションは5速ではなく4速を採用。そのクラッチをワイヤー引きではなくロッド引きにしたため位置を変える必要があり、そのままではキックアームの場所も足裏に当たってしまう。そこで諸々の問題はミッションを限界まで奥へ入れ込むことで解決されている。

「実はこれセルモーターの位置も変えたかったんでピニオンとリングギアだけ使ってキットを自作してます。要は前から見たときに、全ての部分を横に張り出さないようにウチにウチに入れていってるんです」

全体の細身のラインに、コンセプトの通りに各所に忍ばせた丹念な造作の数々。しかし何より響くのは、フォークにあえて加工難度の高いステンレス材を選んだこんな理由である。「鉄を使ったスプリンガーは10年20年経つとほとんどメッキが浮いてしまってる。でもこのバイクは50年後でも綺麗な状態のまま残ってて欲しいんですよね」。

FRONT FORK

加工が難しいものの経年劣化の少ないステンレス材を使用。ダウンチューブ下のシュラウドは電装ボックス。

GAS TANK

スポーツタンクを加工したオリジナルには、アルミを削り出したスリットオーナメントをアクセントに添える。

HAND SHIFT

ハンドシフトは忍者の刀を想起して作製。鍔（つば）は骨董品屋で入手した本物でそれに合わせて作り込まれた。

TRANS MISSION

4速ミッションを採用し、キックアームが足裏に当たらないよう奥に格納。その後方はセルスタートスイッチ。

REAR FENDER

ガスタンク同様に、鉄でワンオフしたリアフェンダーのトップやステーにデコラティブなオーナメントを付帯。

SUSPENSION

グリースが独自で作製したプランジャーサスペンション。強度検討書付きの公認取得のオリジナルパーツ。