H-D FL 1950
SATISFACTION
芸術的な加工の業を見る
中世欧州の香り漂うボバー
「特にコンセプトってモノは無かったんですよね。この一台を作るに当たっては。でも強いて言えば……ちょっとアーティスティックなメタルワークをやってみたかったり、分割タンクにしたかったり、そういう細かいとこは自分の中で決まってたんですけどね」
そう答えてくれたのは、大分市に店を構えるサティスファクションの山口さん。飄々と話す会話の内容とは対照的に、眼前のマシンは雄弁な存在感をたたえていた。
ベースになったのはオリジナルに近いビジュアルだった1950年式のパンヘッド。カスタムに際し、オーナーからの注文は特になし。すべては山口さんのセンスと腕に託された。
そこでまず氏は、ガッチリとした体格のオーナーに合わせ、細身のチョッパーというよりは悠々としたボバーをイメージしたと言う。
始めに、オリジナルのフットボードは外されたが、跨いだ姿がフットボード時のポジションと同じになるようステップをミッド寄りの位置に変更。次にフロントエンドは基本的にストックを用いつつも、ホイールを16インチから19インチにスワップ。これによりマシンの全体像はオリジナルよりも少しシャープな印象となっている。
一方、冒頭で山口さんが話してくれたように、随所にメタルワークの妙も垣間見る。最初に目を引かれるのはタンク周りだ。3.5ガロンのマスタングタンクをセンターでカットして分割タンクにリメイク。そこにメーターを埋め込んで、純正のシャットオフバルブ(ペットコック)をオリジナルと同じように配している。
そしてそのナローになったタンクに合わせてタンクシフトの位置を調整。シフターの支点が経由する箇所のメタルワークもエッジの効いた秀逸なデザインだ。
また、リアフェンダー周りも見逃せないギミックが多い。特にフェンダー下で2分割するというアシンメトリーなフェンダーブレス部分は意匠を凝らした痛快なパートだ。中世ヨーロッパの甲冑をイメージしたという非凡な造形美と、錆による腐食を防ぐときに用いる錆転換剤を使った粗野で重厚な質感に思わず唸ってしまう。
マットな赤に染められた外装にはゴールドでアラベスク調の文様が描かれ、こちらも気品ある中世のヨーロッパの雰囲気を醸し出すのに一役買っている。
フロント周りなどに残されたオリジナルの形と、作り込まれたディテイルとが絶妙なバランスで同居する、他の何にも似ていないパンヘッドボバー。実に心を盗む一台だった。
(写真・文/マツモトカズオ)
HARLEY-DAVIDSON FL 1950 DETAIL WORK
HANDLE
ハンドル自体はオリジナルだが、鉄で作ったショートなライザーを用いてトップティーに直付けしている。
SEAT
鉄板から作ったシートベースに、同じく大分市の「ディアストック」が革を張る。スタッズも同店の仕事だ。
HANDSHIFT
オリジナルに倣ったハンドシフト。ペイントは店主の山口さんが信頼する「ガンズカスタムペイント」が担当。
ROCKER CLUTCH
切れ角とバランスに注力したというワンオフのロッカークラッチ。ここにも山口さんのメタルワークが冴える。
FENDER BRACE
ブレスは2分割構造。フェンダーの穴から潜り、フェンダー下で知恵の輪のように結合。独創的なパートとなる。
REAR END
無骨なブレスの頂点に真鍮のワンポイントが映える。テールランプ&ライセンスプレートは右にオフセット。
BUILDER’S VOICE
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