H-D EVOLUTION
GRATIA INDUSTRY MOTORCYCLE

手数は裏切らない
フルクロームの吉兆

手がけるカスタムは、ユニバーサルなフォルムの中に決まって意匠を凝らした作りが投入されている。全体の均衡を崩すことなく、それぞれのディテイルを呼応させて成果をもたらす。

例えば、ガスタンクにスチールプレートの飾りを加えたり、メーターやイグニッション周りなどをカバードして美装したりといった風だ。

こうした細部を見るほどにちょっとした驚きのある巧緻な作風が『グレーシア』のキャラクターであり、店主曽根さんのカスタムの進め方である。勿論、今回のフルクロームメッキのチョッパーも例外ではない。

「リジッドフレームでピーナツタンク。シートもフェンダーもこんな感じでという指定でした。あとはまあモーターショーに出展したいということで、その中でも目立つようなバイクにしたいと」

そこでオーナーに提案したのがフルクロームだ。しかし曽根さん自身初めてだったこともあり、とにかく一番大変だったのが下地処理で、良いメッキをフレームにのせるためにひたすら磨き込んだことが最も難儀だったと話す。

結局、下地処理までをメッキ屋がするわけではなく、仕上がりの良し悪しを左右するのは依頼したショップ次第。

メッキがのりやすいように『カド』や『キワ』を極力無くし、パイプとパイプの補強部分の溝なども磨きやすいように作る必要があるなど、作り手は常に頭を働かせてバイクに向き合わなければならない。一般的に、フルクロームのカスタムの難易度が高いとされるのは、こうした点もひとつの要因である。

そして、オーナーが他に希望した『曽根さんらしい作り』の部分も当然踏襲。まず肉厚9mmの極太ダウンチューブパイプに入れたスリットデザインを手始めに、ガスタンクとオイルタンクにはリベットデザインで盛装した得意のオーナメントを付帯。

フットステップやそのリンケージにも氏の『らしさ』は勢力を弱めることなく注入され、その見応えは鑑賞者の気をそらすことはない。

また、シッシーバーも相当で、テールランプを軽妙に埋め込みアーティスティックに造作。物作りへの熱量が溢れんばかりに詰まったセクションが、リッチなフルクロームとしっくり調和を取っている。しかしそのチョッパーを前に氏は、乗り味の吉兆にも触れる。

「足位置がハイミッドで絞りハンドルやから乗りにくいと思いきや、これほど乗りやすいバイクはないってぐらいラクです。直線は特に。やっぱり膝の上に手を乗せれるってすごいラクですよね」

FRONT FORK

フォークはスポーツスターの純正39mmタイプを使い2インチ延長。ヘッドライトを縦置きし特徴的な表情を作る。

GAS TANK

ピーナツタンク中央にリベットを埋め込んだスチールプレートを溶接。彫金を入れたエンブレムも自作のパート。

OIL TANK

立体的に成形されたタンク表面と、フレームとのジョイントステーにも手をかけた特有の『作り』が披露される。

FOOT CONTROL

ワンオフのミッドハイ位置のフットコントロール。ステップも他の各パーツに配したリベットデザインで統一。

MUFFLER

遊び心ある湾曲させたマフラー。単純なパーツの装着で終わらせないひねりの効かせ方が同店の作風である。

SISSY BAR

どこか近古の時代の西欧の騎士を思わすデザインのシッシーバー。時間をかけ丹念に手作業で産み落とされた一品。