HARLEY-DAVIDSON EL 1938
BOOTLEG
フェイクを寄せ付けない
叩き上げのテクニック
アメリカンヒルクライムの歴史は古く、さかのぼれば1910年代から大自然に囲まれた丘陵地帯で行われていたレースである。幅30フィート(約9.1m)/距離200 – 600フィート(約60 – 180m)の急傾斜のオフロードコースを、誰が一番速く駆け登るかを競う明快な内容で、当時のバイク乗りたちを熱狂させた。そして今回の’40年代スタイルのヒルクライマーは、年々ブラッシュアップしていったシーンにおいて、程よく成熟した時代の一台とも言える。
カスタムの製作に当たっては、外装がバラバラだった状態からスタート。要所でオーナーがコレクトしていた当時のヴィンテージパーツを受け取りながら、代表の菊原さんと二人三脚で作業は進められた。
「タンクはパンヘッドの物なんですけど、このヤレた雰囲気に全体を合わせていった感じ。そのままじゃ大きいから、表面の風合いを殺さないように当時の3.25ガロンサイズに作り直して、あとはフェンダーやライザー周りをエイジングしていったみたいな。やっちゃった感が出ないように雰囲気を合わせるのが難しかったですね」
氏が言うように、自然なエイジング加工は想像以上に難しい。錆出しや塗装、ペーパーでの荒研ぎを駆使して表現するそれは、やり過ぎた途端白けてしまう、実にナイーブな作業である。
仕上げのテクニックのみでなく作り物にも注目したい。タンクのリメイクもさることながら、オイルラインも苦慮した箇所だ。’40年代のヒルクライマーに倣い、タンクの下から銅パイプでライン取りしているのだが、これは上から取った時とは比較にならないほどの手間が掛かっている。なにせその為に、タンク内部に銅パイプをロウ付けする必要があるからで、もし、リバースもベントラインも上にあればその加工は不要だったわけだ。しかし、こうした本物志向は細部に渡って息づき、妥協はどこにも無い。
純正のスプリングフォークやホイールはまだしも、なんとタイヤにも当時物を用意。70年以上も前のリアルをここぞと持ち出している。そして、誉れ高き名品のフランダースハンドルに、B&Hシフター、シューペリア製ハイパイプといった垂涎のヴィンテージに対して、ワンオフした部位を違和感なく調和。例えば、同じく30年代のパーツとおぼしきライザーは、既製品を加工してエイジングした物だというから恐れ入る。
ヴィンテージパーツありきの構成は、嫌というほど『腕』が顕著に現れるものだ。この次元のクオリティを見れば分かるように、玄人はだしが手を出せば火傷する。
HARLEY-DAVIDSON EL 1938 DETAIL WORK
HANDLE
希少なフランダースハンドルに合わせて市販のライザーを加工してエイジング。その馴染み具合は至って自然だ。
GAS TANK
タンクありきのカスタムである。右側がオイルタンクで中にパイプをロウ付け。上側の鉄プレートはワンオフ。
ENGINE
1000ccのストックモーターにリンカート製M5キャブを装着。カバーは持ち込みの鹿児島スワロウテイル製。
FOOT CONTROL
シフトは入手困難なB&Hシフター。ハンドクラッチでシフト操作できるヒルクライマーと相性の良い一品。
OPEN CHAIN
荒々しさが全面に出たオープンチェーンはオーナーの要望。ノーマルは乾式クラッチでオイルが垂れ流し仕様。
REAR TIRE
18インチホールには、70年以上前のリアルなGOOD YEARを装着。かなりレアなヴィンテージを投入する。
BUILDER’S VOICE
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