H-D FL 1964
HOT CHOP SPEED SHOP
地盤を築く
追加のパラダイム
「まあモールディングが僕好きなので、うちのデモバイクとして、旅にも出れるような、カバンありきのチョッパーですね(笑)」
腕一本で勝負に出る、侠客(きょうかく)ひしめく京都のカスタムシーンにおいて、古くからその代表格に君臨する店主中野さんの快作がこの’64年式パンヘッド。ゆったりと微笑をこぼす氏は、フレームと外装が一体となった滑らかなモールディングと、左後方に配したバブルバッグがポイントのカスタムだと言う。
まず、フレームとガスタンクがえも言われぬ曲線でつながり合った、美しく肉感的なモールディングを正視したい。ピーナツタンクをナロー化したそれをフレームへと載せ、思わず頬ずりしたくなるような照りのあるラインにパテを打ってモールディング。また一般的には、パテから塗装への工程はペインターの仕事だが、氏はそのすべてをペインターの横にピタリと付いて共に作業を進めたと話す。
「頭にあるイメージを伝えながら、横に付いてですね(笑)。イメージはなんだろう、’60年代なんかな。あとはエドロスとかのモールディングであったりとか」
カスタムカルチャーのパイオニアであるエドロスをさらりと引き出しから呼び出す辺りはさすがに機知に富んでいる。一方、左側に配したバブルバッグ。こちらも常人の発想では中々浮かばないクリエイティブなパートだが、それを軽々と披露する才気もやはり底が知れない。
「カバンは純正のバブルバッグを使ってテールをモディファイしている。これはパンとかのサイドバッグですね。普通左右に付くものを片側だけ使ってポンティアックのテールを埋めてるのかな」
大枠はこのモールディングとバッグの2点だが、同店の強度は全体にくまなく忍んだデザインにもある。今回はジョッキーシフトレバーやシッシーバー、マフラーステーなどをラウンド型の意匠で統一し、あくまで『気付く人には気付く』というドライな体(てい)でひねりを効かせている。
中野さんが自分用に作った、旅するパンヘッド。「どちらかといえばウチは何かを足すプラスのカスタム」と話す氏は、今後こういうオーダーが入って欲しいとの思いで製作したものだそうだ。
マイナスが主流を占める中でのプラスのカスタム。どのみちこうしたプラスの視点で繰り広げられるカスタムの次元に、刺客は鳴りをひそめる。そしてこのオリジナリティの独走が、京都の第一線でカスタムを張る男の揃いのカードだ。
HARLEY-DAVIDSON FL 1964 DETAIL WORK
HANDLE
シックスベントバーを装着し、長距離を快適にこなすポジションを形成。ガスキャップは車用を鋳物でリメイク。
FRONT FORK
ほどよく伸ばしたスプリンガーフォークは4インチオーバー。ヘッドライトは国産の古いSHOWA製をチョイス。
MOLDING
フレームと外装が一体となった端整なモールディング。ペイントはゴールドの上にキャンディグリーンを吹く。
MUFFLER
他のディテイル同様にマフラーも手間をかけてトリッキーに造作。前後ピタリとしつらえた軌道を描きマウント。
BUBBLE BAGS
旅情をかき立てるカスタムテイスト溢れたバブルバッグ。テールにポンティアックのライトが埋め込まれる。
HIGH BACK SEAT
腰を確実にホールドするハイバックシート。スタイルと、パッセンジャーや積載という機能性の両面を併せもつ。
BUILDER’S VOICE
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