H-D S&S KNUCKLEHEAD
BIKE GARAGE KOKORO

ロープ上で舞うかの
研ぎ澄んだバランス

周りにいる人の心のなかに、『ぽっ』と花を咲かせるような、はつらつとして笑顔を絶やさない人。同じ空間にいるだけで楽しい気持ちにさせてくれる、そんな人は案外少ないものだ。

店主の内田さんはソフトタッチな人柄だけでなく、いざという時のパンチ力をも忍ばせた気概のあるカスタムビルダーだ。二十歳で店を立ち上げ、腕1本でのし上がって来た実力は伊達じゃない。S&S製93cu.in.（1525cc）のナックルモーターを搭載したスペシャルメイドを、早速見てみよう。

「純レーサーのKRとビッグツインを融合させたようなスタイルを作りたかった。あんまり車高も落とし過ぎないようにして、普通に車体を倒してどこへでも走っていけるような状態にした」

それに伴い、全体のディメンションを変更。リアのアクスル位置を前方に2インチ縮めて、更に上方へ1インチアップ。車高を上げることで走行時のスポーツ性を高めている。また、フォークにビューエルX1用のSHOWA倒立を組み、キャリパーは前後共にブレンボ4ポットで武装。レーシング系カスタムも得意とする同店なだけに、セットアップした各パーツに本質が潜む。

「一番は全体のバランスですよね。あとはフォークだったりブレーキの存在感が強いんで、なるべくそこを押し出さないように作った。他には、93キュービックインチのポテンシャルをフルに出し切りたかったのでその辺も考えてます」

トランスにはベイカーの6速ミッションを搭載し、気軽に走れるようにとセルスタートも装着。『普通に走れて止まる』という同店が最もウエイトを置くポイントは手厚く対処された。

そして、タンクやフェンダーといった外装の中でもひと際目を惹くのが、左出しのマフラーだ。軽く上方へカチ上げたショートスタイル。ナックルの場合右側のインパクトが十分強いから左側にも見せ場を用意したかったと、コンパクトな車体に、針の穴を通すかの巧さでフィッティングさせている。

巧さつながりでペイントにも触れておこう。このレベルのカスタムを前にしたら、フレーム処理に目をやると話は早い。レーシングストライプを思わすレッドライン。控えめなアクセントながら威力は抜群。シックなカラーリングとの相性の良さはもはやミルクとアンパンほどだろう。

「一番手こずったのは本当にバランスだと思う」、という氏の苦労は、こうしたディテイルひとつずつの形状やマウント位置に宿り、スマートな完成形からはおよそ想像出来ない熱量が費やされている。

HANDLE

ハンドルはコンチタイプで左右にベルリンガー製マスターシリンダーを装着。メーターは名品スミスの電子式。

FRONT FORK

剛性が高くスポーツ走行に適した倒立フォークはビューエルX1用をセット。ヘッドライトは当時のS&M製。

GAS TANK

ワンオフタンクの中央にはオーナメントも兼ねたパネルを取り付ける。後部のマウントタブも精緻な作りだ。

MUFFLER

絶妙なサイジングにまとめたマフラーはスチールでワンオフ。ほど良くカチ上がった形状がスピード感を演出。

PRIMARY

値の張った鋳物のプライマリーはベイカー製。表面の特有の質感に合わせてミッドコントロールは製作された。

REAR END

後端のループフレームがポイントのリアエンド。さり気ないフェンダーステーの造形にビルダーの腕を見る。