VIRTUOSO MOTORCYCLES
宮浦 努 Tsutomu Miyaura
INTERVIEW
March 3rd, 2017
第一線で活躍する同業のプロフェッショナルを前に、「あそこの作るバイクは真似できない」、と言わしめるカスタムショップである。それを指すのは技術やノウハウではなく、狂おしいまでの作り込み。採算を度外視した圧倒的な手数から成るカスタムは総じて美しく、一種の狂気すら漂わせている。
代表の宮浦さんは’68年に生まれ、三重県四日市で育ってきた。高校時代はパンクバンドにのめり込みギターを担当、待望のバイクの免許を取得したのは卒業してすぐのことだ。そして、最初に手に入れたカワサキLTD400にわずか1年乗った後、今度は周りの影響でハーレーのFLHを購入。そこから数台の旧車を乗り継ぎ、27歳でショップをオープンさせたと言う。
そうゆったりと過去について話す氏は、強烈なカスタムの印象とは対照的なメローな空気感を全身にまとい、また、語尾が伸びる特徴的な口調には、不思議と周りの人間をリラックスさせる響きがある。そんなカスタムとのギャップを持つ人物像に触れてみよう。
特に変わりなく
やってますよ一応
ー ご無沙汰してます。一昨年のクールブレイカープレミアムで久しぶりにお会いしましたけど、それまではホームページも無くなっていたので一体どうしたのかな、と。
■ 特に変わりなく(笑)。まあ、ネジの販売(※COLONYの正規代理店を務めている)が大変だけどいま。
ー ホームページが無くなったのは?
■ 世話してくれてた人と連絡つかなくなっただけぇ(笑)。手に負えないからやってないだけぇ。ほんとはやらないとダメなんだけどねー。
ー でもブログはやってるんですよね。
■ やってます、一応。
ー GRATEFUL CHOPでしたよね。
■ はいー。
サイクルマグが
エロ本代わり
ー 27の時に立ち上げたヴァーチュオーゾですけど、宮浦さんが車の整備士の後に、バイク屋で修業しないでいきなり店を始めたのは?
■ いやもう、自分のバイクを触ってただけの話でー。
ー ずっと触りたいなって。
■ そう、そう、そう、そう。
ー その頃乗ってたのはナックルヘッドって言いましたっけ? ホットバイク15号にも載ってた純正スタイルのバリモンのやつ。
■ そう。で、ナックルはさー、触るに値しないじゃん。だから多分その反動で店やりたかったんじゃないの。ハハハ(笑)。もっと触りたいと。
ー ヴァーチュオーゾの得意とするカスタムスタイルってどんなのです。もちろんイメージはあるんですけど宮浦さんの言葉で教えもらいたいな、と。
■ そこねえ、俺も分かんなくって。だけど、やっぱりああいう60年代70年代ぐらいのサイクルマグに出てくるバイクが好きなんだよねぇ。何故かってそれで育ったから。エロ本代わりに本買ってもらって(笑)、みんな見まくったじゃん。
ー いくつぐらいの時から買ってたんです?
■ だからハーレーというものに興味を持ったのは小学校の頃よ。
ー 早っ! その頃から当時のサイクルマガジンを見てたんですか!?
■ いやあ、もうその頃の出版社が出してるハーレーの本をお年玉で買って、ちょっと分厚いやつをね。で、それを見るだけの話よ。
やっぱり
一車一生
ー 宮浦さんの作るカスタムって、プロが見ても「凄い」って言いますけど。
■ 誰が言っとるのそんなこと。
ー あれは真似出来ないって言いますよね。
■ いやあ、そんなことないと思うんだけどなあー。
ー やっぱり徹底的に作り込まないと性格的にダメですか?
■ だから言ったじゃん、気が小さいって。アハハハ(笑)。
ー なるほど、そこだ! 気になるんだ。
■ えー。
ー だから、極限まで手をかけて気にならないとこまで持ってくんですね。
■ いやあ、それはだから、いつまで経っても満足しないから次々行きたがるんだろうけど、やっぱ一車一生(※一日一生の宮浦さんの造語)ですよねぇ。なるべくはもう、満足するようにやるんだけど(笑)。そんなとこじゃないのー。
ー 逆に聞くと、満足しない状態で出したカスタムってあります?
■ いやあ、後悔してる仕事はいっぱいあるよね。もうちょっとちゃんとやれたなぁー、とか、もうちょっと損得勘定せずにやれば良かったなあ、とかいっぱいあるよ。
幼い頃に見たもの
それがすべて
ー 昔から’60~’70年代のサイクルマガジンを見て育ったあのカスタムスタイルです?
■ うん、だからあの、赤いディガーをクールブレイカーの1回目に出してんじゃん。でも、たまたまああいうベースの中古車を俺が綺麗にしただけの話で、何もやってないんだけど。そこでタイミング的にもいきなりディガー!?っていうのは周りの反応であったよねぇー(笑)。
ー 王道のチョッパーといった段階を踏まずに、当時としてはまだ物珍しいディガーを。
■ そういう巡り合わせだったっていうことだよねー。それはもう持ってかなきゃっていう感じになっちゃうよねー。
ー ディガーも好きだしチョッパーも好き。ジャンルではなくヴァーチュオーゾの世界観は年代で捉えた方が良いんでしょうね。
■ そうだねー、そういう雰囲気が好きだよねぇー。匂いっていうかねえ。だから結局、幼い頃に見たサイクルマグに詰まってるものは全部好きなんだよね。そっからまだ進歩できないっていうか。だけどそれが果たして、ねえ。作った物がドンピシャかって言ったらそうじゃない場合もあるだろうし、なんとも言えんのだけど、うん。
ー 例えばずっとこう、心地の良い音楽が流れてますけど、こういう音楽とリンクする世界観ですよね。
■ まあそうかなあっていう。
ー これはグレイトフルデッドの?
■ セットブレイクの時に流れてたやつ。ファーストセットとセカンドセットの間の時間にこういうのが流れるんだよね。
エースとかナイス
あとはホグホリック
ー 宮浦さんのようなチョッパーを作る人がどんなバイクに興味があるのか非常に気になります。一体どういうバイクに関心があるんです?
■ いやあ、ところがねえ、派手なバイクも地味なバイクも好きなんだよねえー。
ー 例えばどんなショップです?
■ ショップは神戸のショップとか、エースとかナイスとか、あとはホグホリックとか。
ー 東京はホグホリックですか。
■ 面白いよね。「おおおおーーーー!!!! なるほどねえーーーー!!!! やるねえーーーー!!!! 横溝くーーーん!!!!」、みたいな(笑)。うんうん。
儲けるための妥協は
バイクが可哀そう
ー 宮浦さんって、仕事を始めてから味わった大きな挫折とかあるんですか?
■ 挫折?
ー ええ。良い話ばかりでもつまらないんで。
■ ないねえー。まあ金がないぐらい(笑)。バイト行くぐらい(笑)。
ー おっと。バイトですか!?
■ バイトは前行っとったよね。2年前ぐらいに。金がないから(笑)。ヤマト運輸で荷物の仕分けをやったよねえー。
ー 今は落ち着いてきて。
■ いやあ、今もいつ行かないかんと思うぐらいだよね。そう、だからあんまりお金には興味ないんだよねぇー。
ー そこがやっぱヴァーチュの
■ ダメだってそんなこと言っちゃーーーー!!!!(爆)。
ー (爆)。そうですよね。
■ うーん。
ー でも宮浦さんはお金の為に妥協して作った物をお客さんに出す気はないわけでしょ。
■ そうせざるをえんかもしれんよー(笑)。そう思ってこのEVOを仕入れたけどさ、でもやっぱこれじゃあ出せんなって思うからシーシーバーちょっと作ってメッキするかとか。うん、だから、そのバイクで良しとするかなんだよね。いくら儲かるじゃなくて。
ー なるほど。
■ だから儲かるんだったら中途半端な作りで良いのっつったら、そのバイクが可哀そうな気がしてさあ。
ー その言葉かあ。それを聞けただけでもここまで来た甲斐があります。
■ いやあ、そうでしょだって。かといって俺バイク好きかって聞かれりゃそうでもないような気もするんだけど(笑)。
ー おっす(笑)。
やりたいときにやる
やりたいことをやる
ー 最近の活動について教えてもらいたいんですけど、カスタムはどうです?
■ カスタムはお客さんのはやってないですけどねえ。
ー えっ!?(笑)。じゃあお客の付いていないプロジェクトバイクをやられてる。
■ そう。まあ次はまた、みんなが見たことないようなの作れれば良いよねー。
ー ヴァーチュオーゾの逸話を聞いたことがあって、あるお客さんが遠路遥々、宮浦さんのところにカスタムの相談をしに来たらしいんですね。
■ うんうん。
ー でもその内容を聞いて、「うーん、それはうちじゃなくてどこどこのショップが良いんじゃないの」、っていなされたと。
■ うんうん。
ー そういうのってあるんですか?
■ よくある(笑)。
ー でも相手はヴァーチュオーゾのファンですよ?
■ 違う違う。そのお客さんが求めているものがここだなあって思ったら、もう迷わずそこを勧める。
ー それがさっき言ってたお金がない時だとして、商売っ気を出してやるというのも?
■ ないねー、ないんだよねー。例えばペッカーズ(※愛知県豊橋のロングフォークチョッパー屋)が好きなお客さんが来て一緒の作ってくれって言うんだったら行った方が良いじゃん、ペッカーズがカッコ良いんだもん。それはもうなんのあれもなく言うよ。
ー 「うちでもやらせてもらおう」、じゃなくて、「うちのスタイルだったらやる」ということですよね。
■ うん。
ー どこにも嘘がないよなぁ。不器用過ぎるけど。
■ と思うけどなあ。そうだからビル立たないと思うんだよね。
ー あとはやっぱり、こののんびりとした空気感がやりやすいというのも。
■ そうだねえ、これに慣れちゃってるからねえー。逆に忙しいと「キー!」ってなっちゃうかもしれんし。だからちょうど良い環境に恵まれてます。
ー 一番の幸せってこういうことですか?
■ やりたい時にやれること。やりたいことをやれるっていうのが良いよね。
ー でもそれにはやっぱりお金は付いてこないわけですよね?
■ はいー(笑)。
ー そこはやりたいことをやるスタイルを崩さず。
■ まあ一番高揚感を得れるからね。
一台作って仕入れて
それが普通に出来たら良いね
ー 今後はどうです? どんなことをしていきたいとか。
■ 次々作れれば良いよねー。そう、うーん、一台作ってまたベース車両仕入れて一台作ってを繰り返せれたら良いよね。
ー (笑)。良いよねってことはペース的には厳しいと。
■ もう博打的なところあるよねえ。だから売れるの作らなきゃって思うけど、やっぱ素っ頓狂なの作っちゃうから、やっぱり大変だよね。
細かい作りより
ラインが重要
ー 宮浦さんがカスタムの実作業でこだわる箇所ってどこです?
■ いやだから、ラインだって。フェンダーの傾き具合だとかタイヤのかぶり具合だとか、タンクとか、そういうラインだねぇー。「ああ俺ならここにこう付けるなあ!」とかあるじゃん(笑)。あるでしょ! そこが一番最重要。
ー 作りの細かな箇所というよりはラインが真っ先に。
■ そう、そう、そう。
ー そこが納得出来なければ何度でもやり直すと。
■ そうだねー。まあなかなか簡単には近付かないけどねー。だから、「今回これかあ」って感じで一応決めるよね。最終的にはね。
ー これしかない! じゃなくてですか。
■ そう、そう、そう、そう。
ー 何度も何度もやり直しているのに?
■ やり直すって言っても、例えばピーナツタンクに決めました言ったらピーナツタンクの枠の中でのやり直しね。ここのケツもうちょっと細い方が良いとか、ここもうちょっと高い方が良いとか、そういうやり直しなんだけど。そのピーナツタンクに決めるまでが最重要。
ー そのピーナツタンクに決めるまでは?
■ イメージだね。スポーツタンクでいくのかピーナツタンクでいくのか、はたまた奇天烈なのでいくのかを考えて。
ー ヴァーチュオーゾは奇天烈なイメージがありますよね。
■ 最近はでもあんまり直接的なものは好みで無くなってきてるから。ああでも実際作ってるから直接的かあ。分かんねえんだよ自分でも(笑)。
忘我!
結局それだよ
ー 宮浦さん夢ってあります?
■ 夢は結構叶えちゃってるよねー。
ー えっ!? 何ですかそれ?
■ いやだって現在そうじゃん。やりたいことやれる? ああでも海外に持ってってみたいね、作ったチョッパーね。まあ無理か、分かんないけど(笑)。
ー 無理ってことはないですよ。
■ まあね、でも持ってくこともねえよなあ、どうなんだろう? それぐらいかな。
ー では最後に、宮浦さんにとってチョッパーって何ですか?
■ うーん、これ難しいよね、何? どういうこと?
ー フラットに。
■ いやあ、別にオモチャみたいなもんじゃない、これ言うと怒る人いると思うけど。だから夢中になって、もう忘我するオモチャ。もう忘我ですよ、最終目標は。ああもうこんな時間、メシ食わなきゃって最高じゃないそれ!
ー 最終目標どころか今もそうですよね?
■ はい。だからああやって削ってんの大変だねって言われるけど全然大変じゃないんだよね。だから、やっぱりプラスマイナスを考えるようになったらだいぶ楽になったよねー。
ー というと?
■ マイナスの上にしかプラスは成り立たないと考えれば、おのずとマイナスの部分を率先してやらないと進まないわけじゃん。そうなってくるとシートメタルも鈑金もパテも全然楽しいよ。
ー 考えもそうですけど、本能的にも楽しんでますよね。
■ そうなんだよねえ(笑)。おおー来た来た! みたいな感じ(笑)。そのテンションはやっぱりやりたいと思ってやってるチョッパーは毎回来るよね。だからお客さんの注文来ないのかもしれない!
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