STANDY MOTORCYCLES
熊谷光輔 Kosuke Kumagai
INTERVIEW
June 16th, 2018
トライアンフを軸に据えたカスタムショップとして、2014年の開業から加速度的にその名が浸透していった『スタンディ』。店主の熊谷さんは大のレース好きとして知られ、これまで、ダスターズカップやグリズリーカップ、チキチキ、千里浜サンドフラッツといった土系のレースに好んで参戦し、出るたびに頭角を現してきたニューエイジのダートスターだ。
仙台で生まれ育ち、高校ではサッカーに夢中になってベガルタ仙台ユースに所属。しかしその後はサッカーを離れ、柔道整復師の専門学校へと入学。そして、そこで通学用に手に入れた初のバイク、ホンダFTRで氏の景色は大きく拓けていった。
父親が仙台有数のオフ車専門店を営んでいたにも関わらず、存在が近過ぎるがゆえに逆に関心を持たず、高校を卒業してようやく足を踏み入れた二輪の世界。カスタムや草レースにのめり込んでスパークする前のめりな日々に、愛すべき風雲児のいまが胎動する。
当たり前過ぎて
全然興味がなかった
ー まず10代のころからお話を聞きたいんですけど、どんな少年でした?
■ まあ高校生のときはずっとサッカーやってて、卒業して専門学校ですね。柔道整復師の専門に通っていて、それで通学で初めてバイクに乗ったのがきっかけで。
ー 高校卒業してからなんですね。そのときは何を?
■ 最初はFTR250。それまでは免許も持ってなくて、普通の移動手段として買った感じです。だからまだそこではバイクにはまってなくて。
ー ではどの辺からスイッチが入ったんです?
■ たまたまバイク雑誌を立ち読みしてて、そこにすごいカッコいいバイク作ってるお店が仙台にあったんです。マギースタンダードっていう今はもうないんですけど、最初ロアーズのセイジさんと一緒にやってた人で、そこでまあSRとかいろんなカスタム見てはまってった感じですね。
ー 興味が出たのはカスタムからだったんですね。でも熊谷さんの親はクマミズっていうオフ車専門店をやってたんですよね?
■ そうです。だけど昔から慣れ親しんでいたわけじゃなくて、逆にバイクが当たり前にありすぎて全然興味がなかったんですよ。
やり出したら楽しくて
もう整骨院はいいやって
ー 自分で関心を持ち出してからようやくお父さんのところで働き出したと。
■ 最初は専門学校卒業して整骨院で働いてたんです。そこで1年ぐらい社員で務めて、お金も安定してもらえたからやっとマギースタンダードでカスタムをお願いしようと思ってたんですね。でもそこの社長が事故で亡くなっちゃって。で、もう自分でやるしかないなって。家の庭でやり始めたら楽しくなっちゃったんですよ。
ー 実家がバイク屋なのに家の庭で?
■ はい。やり始めたら楽しくって、もう整骨院はいいやって。たしか12月ごろに整骨院を辞めて、親父のところで翌月の1月ぐらいからやってましたね。でも一応親父のところで働き出したカタチなんですけど、同じ店舗内ですぐに親父の店と僕の店を完全に分けたんです。
ー それはお父さんがモトクロス系だから、熊谷さん的にはまた違ったことをしたくて?
■ そうですね、トライアンフとかSRとか。それで店の中で間切りして、『スタンディ』っていう名前で始めた。会計上完全に独立したのが2014年とかで、こっちの富谷市に移ってきたのは去年です。親父のほうはそのあと体調悪くして倒れちゃって、引退、廃業しましたね。
親父は国際A級
僕は遅咲きの超初心者
ー 土系のレースで入賞常連ですけど、昔から特別な練習とかしてるんですか?
■ いやいや。そもそも僕がモトクロスに興味を持ち出したのが2012年の、震災の次の年だったんです。その頃はスポーツスターとかSRに乗ってたんですけど、仙台のカスタム屋さん 達が合同で原付レースを開催してて、初めてオフロードをまともに走ったのはそれだった。
ー それが初めて!? 興味がなかったにしてもお父さんの影響で小さい頃からバイクで遊んでたわけじゃないんです?
■ 実は違うんです。その時にカブで出て、初めてなのに2位をとれた。それで、『わあ面白い!』ってなって、そこからすぐCRF250のモトクロッサー買って、ちょっと練習して200台近く集まるスゴウ(※宮城県柴田郡、スポーツランドSUGO)の規模の大きい草レースに行ったんですね。そしたら親父はまあ国際A級で仙台では知られた人なんで、『あいつクマミズの息子だぞ』って。今までどこでやってたんだみたいな。当然あいつは凄い速いって目線で見られるわけですよ(笑)。
ー そんな凄いお父さんだったのにこれまでバイクに無関心だったんですね。
■ だから大変(笑)。みんなに見られるんだけど実際は初心者で、いざレース走ってももちろん初心者丸出しで、ジャンプもまともに飛べずへっぽこ。それでくやしくて、練習してですね。
ー 徐々に。
■ そうですね、ほんと徐々にです。
風呂入りに帰って
店に泊まってます
ー そういえば最近、お子さんと二人で楽しそうにバイクに乗ってる姿をインスタに上げてましたけど?
■ あれはうちから30分ぐらいの古川のコースです。急に息子がバイク乗りたいって言い出したんで遊びに行ったときの。もう少しで3歳なんですけど、普段僕が全然遊べないんですよね。それで多分バイクって言えばお父さんが遊んでくれるっていう知恵がついたみたいで(笑)。
ー 確かに熊谷さんは年中店にいるイメージです。
■ まあかなり待たせちゃってるのも多いし。特にここ2ヶ月ちょっとは朝10時から翌朝6時までとかでしたもんね。だから家帰るのは本当たまにで風呂入るぐらい。ここに泊まってますから(笑)。
信号守るのがダサイ
そんな時期もあった
ー 土系のレースにはまったキッカケってさっきの原付レースからですか?
■ ですかね。僕その、ハタチ前後のときに信号守るのがダサイって時期があったんです(笑)。暴走族ではないんですけど、低回転で走ったりとか全開じゃない領域で道路を走るのがダサイって思ってた時期があるんですよ(笑)。
ー キテるなそれ(汗)。
■ でも結局はたから見たら暴走族と一緒だし、カッコいいものでもなんでもなくて。それでさっきの初めてのレースで2位になったときですよね。そこはもう速いのが偉いっていう場所だから一気にはまってった。
ー シンプルな世界だから。
■ ですね。これだ!って。
ー やっぱりスタンディのカスタムバイクってそこだと思うんですよ。もう走りたい衝動がパンパンになって破裂しそうな雰囲気というか、バイクに嘘がない。熊谷さん的にはスタンディのスタイルってどの辺だと思います?
■ そこは何て言うんでしょう、まあ当たり前ですけどカッコ良くて速いもの。速ければカッコ良いわけじゃなくて、まずはカッコいいのが前提だと思う。古いのでも新しいのでもとりあえずカッコいいのは当たり前って感覚でいますから。そしてそれを更に速く走ってたら最高だよねっ、ていうところですかね。
捻じれて折れたけど
そこは自分で治した
ー 話を聞く限り、そんなにアグレッシブなバイク歴だと怪我も多いんじゃないですか。
■ うーん、そうでもないですね。ああ、でも、そのすげえ飛ばしてた時代に一方通行逆走しちゃって(笑)。車1台通るのがやっとの所なのにかなりスピード出しててそこに対向車が来ちゃった時があって。やっぱりそういう時ってスローモーションになるんですよ。ゆっくり景色が変わってく中で、カウンター切って脇のガードレールの隙間ならいけるってもう全開でそこに突っ込んでいったんです。でももうちょいだったのに足だけが車のドアにもってかれて、捻じれて折れました(笑)。
ー 捻じれて折れた。
■ でまあ、整骨院で働いてたんでその場で自分で戻して。
ー 自分で戻して!? じゃあパックリいった傷口も自分で縫って(笑)。
■ いやいや(笑)。
くやし過ぎて
eBAYで買いまくった
ー スタンディはトライアンフをメインに扱ってますよね。なんでトライアンフなんです?
■ もともとはハーレーでやっていきたい部分が最初はあったんですね。でもいざハーレーに乗ってみると全然僕は楽しくなくて。その楽しくないっていうか、遅いし、速くしても結局あの回転の重さだったりで。そんな時にダートラに興味を持って動画とか画像を見てたら、トライアンフの歴史のなかでハーレーとやり合ってた時期があったのを知って、それでトラに乗ってみたいなって。一台目をたまたま安く手に入れたのが最初ですね。
ー 何を買ったんです。
■ TR6を買って、その時は全然教えてくれる人も情報もないしで、とりあえずなんとか自分でやってた。で2015年の千里浜に初めて出たんですよね。そのときは結局ギヤ抜けで1回戦も敗者復活戦も負けたんだけど、他の参加者を見てたらすごい速いトライアンフがいっぱいいたんですよ。でくやしくて、帰りの車でeBAYでパーツを買いまくって。
ー 帰りの車中(笑)。くやしさが伝わってきます。
■ それでそのあとにチューニングにはまっていった。やっぱり僕はトライアンフがしっくり来たんですよ。
ー 熊谷さんの仕事のモチベーションってどこですか? そんなにガムシャラに店に泊まり続けてればさすがに心が折れるときだってありますよね。
■ そうですね、なんすかね……。
ー 例えば、お客さんが喜ぶ顔を見たいだとか、いろいろあるじゃないですか。
■ まあ、表向きはそれでいきましょう(笑)。
努力家というより
楽しければ良い人
ー 熊谷さんにとってカスタムバイクは何か特別なもの?
■ いや、逆です。生活にあって当たり前のもの。だからそういう意味で店名もスタンダードをもじったのにしたんです。すべては本当に当たり前って感覚で、こういうバイク作ってレース出てみんなで遊んでっていうのが特別なことじゃなくて、日常の、当たり前のライフスタイルという感じにしたかった。
ー カスタムバイクが当然のようにライフスタイルに組み込まれてれば自然と毎日がキラキラするし。
■ そうそう。それにこれまではそれなりにビシッとしたカスタムに乗ってないとお客さんは来てくれなかった。だからそういうのもあってホットロッドショーに出展したりして表に出てたけど、今はそこを求めるお客さんが逆に少なくなってきてる。バイクが欲しいって来るよりも遊びたいってくるお客さんのほうが多いんですよね。
ー お客さんのニーズが変わってきてるんだ。ちなみにスタンディはこの富谷市に移転してからまだ1年経つかどうかですよね。
■ そうですね、ちょうど1年。
ー いま一番ホットな土系レースの常勝プレイヤーとはいえ、この期間での認知度の高さはかなりのものだと思うんですよ。
■ うーん……、変な言い方ですけど、基本的に運は良い方なんです(笑)。
ー おっと(笑)。神がかり的な。
■ 僕の知り合いでサッカーだったり野球だったりですごい成功してる人間がいるんです。それこそ香川真司とか、アントラーズの遠藤康とか。選抜で仙台で一緒にやってた時があるんですよね。
ー またぶっこんできた(笑)! サッカーやってたっていうのはそんな次元です!?
■ ベガルタのユースとかでやってました。レギュラーにはなれなかったけど選手権も2年連続で行ってた高校だったし。だからそっちの友だちとか、あとはビジネスで成功してる友達とか、やっぱ最初は運なんですよね。もちろん実力ありきだけど、そこからバーン!っていくのはまず運があって、そこからどれだけ期待値に寄せられるかっていうところなんで。
ー すると熊谷さんは運を持ってると。
■ 厳密には、基本持ってるって思い続ける(笑)。
ー そこかあ(笑)! でもやっぱり運だけに頼らず努力の人でもあるんですよね?
■ 努力っていうよりも楽しけりゃ良いって人です。その、楽しむためには結局お金が必要だから、本当にいっぱい仕事しないといけない。結局楽しいって思えるのはレースで、僕の場合勝たないと面白くない。だから優勝できないレースとかは帰りの車の中ですごい荒れますんで。
ー ベガルタ仕込みの負けず嫌い。
■ はい(笑)。勝てないと全然面白くない。だからその勝つために仕事をいっぱいして、レースに本気で挑んでますね。
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