KEN’S FACTORY
永井健次 Kenji Nagai
INTERVIEW
January 8th, 2017
ケンズファクトリー。「西のケンズ、東のホットドック」と言わしめる、国内カスタムシーンにおいてその名を轟かす老舗にして、今も尚最前線をトレースする重鎮である。ショップのオープンは1990年。周りでハーレーが走っていることすら珍しかった時代に、ケンズは名古屋でスタートを切った。
当時から単独で米国へ足しげく通い、アレンネスやロンシムズといった世界に名立たるカスタムビルダーと交流を深め、そこで得たリアルなカスタムマナーを自身のフィルターに落とし込んで昇華。以来、隙の無いハイクオリティなマシンを一糸ブレることなく手掛けている。
国内・外のカスタムショーに出展すれば常勝を誇り、手にしたアワードは数知れず。そして現在は、オリジナルパーツの販売をメインに手掛ける現地法人のKEN’S FACTORY USAを展開し、更に、Klassy Carsの名でアメ車屋も運営。カスタムビルダーという主軸を崩すことなく地に足を付けながら、多方面で活動するマルチプレイヤーである。
店始めたのは
25の終わりぐらい
ー 名古屋といえばケンズファクトリー。永井さんは出身も名古屋ですか?
■ いや、長崎。市内。
ー では、どんな経緯で名古屋に?
■ ちっちゃい頃におとんの仕事で兵庫県に移って、そこで高校まで行って、それから車の学校に通った。ハタチで車関係に就職して、その後大阪のテイクさん(※現H-D大阪)というところに1年半ぐらいいたのかな。昔はテイクさんも今みたいな大きなディーラーじゃなかったから。
ー 当時いくつぐらいです?
■ 25。で、店始めたのが25の終わりぐらいかな。
ー 結構早い段階でお店をやられたんですね。
■ 当時はみんなそんなもんやったんちゃう。
ー 昔ってそんな感じなんですか?
■ たぶん。なんも考えてないアホばっかやから。
ー (笑)。その時バイクは何に乗ってたんです?
■ ショベルのローライダー。78年か9年の。
ー ケンズファクトリーを始めるキッカケは? 何か決定的なことがあったとか。
■ いや、自然と。いちいち仕事始めるのにそんなのないやろみんな(笑)。
馬鹿って言うやつもおるけど
そういう世界もある
ー 次はケンズのカスタムについて教えてください。永井さんが綺麗なバイクを作る理由というか、この美しいスタイルに惹かれるのはどんなところです? ヤレたチョッパーでもなく、もうこれぞ正しくケンズのバイクじゃないですか。
■ そんなのみんなスースーと答えてる? 無理やろそれ答えるの(笑)。
ー まあ断片を聞き出してうまくつないでいくこともありますね(笑)。でも綺麗な物が好きというのは当然あるわけじゃないですか。
■ 昔からアメリカによく行ってて、そん時からヤレたバイクなんかないやん。30年ぐらい前のアメリカで仕事としてバイク触ってる人間で、汚いバイクを作るやつなんか一人もおらへんかったんや。ネスもシムズもそうだし、ロサンゼルス界隈もいっぱい見たけど。だからこういうもんやと思ってたんとちゃう。考えて作るのも新しいのを作るのも当たり前やと思っとったんやけど、知らん間になんかみんな拾ってきたパーツを付けるのが好きになっちゃって。
ー (笑)。
■ まちがっとるで。100パーまちがっとる。
ー この綺麗なバイクプラス、永井さんはエンジンがホットなものも。
■ ああ、好き。
ー それは何でです?
■ 排気量デカい方がええし、エンジンはパワーある方がええし。だから車もV8以外はほとんど乗ったことないし、でかければ偉いと思ってるから(笑)。それを馬鹿って言うやつもおるかもしれんけど、そういう世界もあるから。
イージーライダー見て
すげえって思ったわけじゃない
ー 永井さん、ちょっと巻き戻して、そもそもハーレーやアメ車に惹かれた理由はあるんです? 映画だったり実際にアメリカに行って影響されたとか。
■ アメリカ行く前にもうハーレー乗ってたから。なんかあったんちゃう。
ー 元も子も(笑)。
■ なんか見たんちゃう(笑)。たぶん。みんなイージーライダーの映画がどうやこうや言うけど、そんなのハーレー乗り出してから訳分からんイベント行って、そこで流れてたのを見て知ったぐらいだから。別にそれ見てすげえって思ったわけじゃない。
ー 当時はハーレー乗りなんて周りにほとんどいない時代ですよね?
■ ほぼ。乗ってるやつ探すほうが難しい時代。隣の県に行かんとおらんぐらいやったと思う。
外注に振っとったら
シャレにもならん
ー カスタムするときにイメージするものってあるんです?
■ なんにも考えない。
ー 手を動かしていくと自然と形になるという。
■ だいたい。これやったらこれで、スーパーチャージャーをどうしても付けたかったから。で、スーパーチャージャー回すのにベルトを通すからプライマリーをオフセットしてベルトの遊びの逃げ位置を作らないかん。そしたらドライブラインが広がるからフレームのこっち側だけ広げないかんし。
ー まずメインディッシュありきで。
■ そんなのは最初に考えるけど、あとはあんまり考えない。タンクの形なんかはもう作りながらどうしようかなって感じ。そんなのややこし過ぎて頭の中で考たとおりの形なんかにできひんもんでなかなか。考えながらやるよりも成り行き。
ー なるほど。これはニュースタイルのバガーとでも呼びたくなるような。
■ さあ、なんなんだろうねコレ。バガーっちゃバガーやし、ディガーっちゃディガーやし、チョッパーっちゃチョッパー。
ー そうですね。では特別コンセプトがあったわけでもなく。
■ だから車名の「ハードコール」っていうのは、なんとも説明しがたいっていう意味やから。
ー 一番大変だったのはどの辺になってきます?
■ これ、考えたくないわ(笑)。
ー もうそういうレベルですか(笑)
■ うん(笑)。簡単そうな場所ありゃ教えて欲しい。
ー なるほどですね。
■ ハンドルぐらいかな、簡単なところは(笑)。
ー ハンドルぐらい。しかも逆説的に(笑)。エンジンは?
■ エンジンは106cu.in.のフォージドピストン入れたスーパーチャージャー仕様。過給圧をかけれるように。
ー ケンズでのカスタムの流れは基本的には永井さんが作っていき、その場その場で外注を使うんですか?
■ まあメッキとペイントは当然外注。塗装はしないから。
ー あとはすべて自社で?
■ 全部、100パーやね。ブレーキキャリパー作ったりとかのマシニングぐらいかね、ほんと外に出すのは。溶接もややこしいやつも全てやるし。こんなオイルポンプの入れもんとかやったら別にフライス旋盤でなんとでも出来るもんで。プーリーとかこんなんは全部自分でやる。
ー 全部自分の手でやるというのはやっぱり好きだから?
■ 好きだからじゃなくて、それやらんとなんのために俺らが存在しとるのか意味ないやん。多分河北さん(※ホットドックカスタムサイクルズ主宰)も一緒だと思うけど、自分の手汚して作るのがやっぱり。それを求めてお客さんがお前に任すわってすごいお金をポーンってくれるわけやから、そらまあ振れんね。
ー そりゃそうですね。
■ それが一番の理由かな。誰がやるからって、やっぱ俺がやるっていうので、ケンズでやるっていうのでそのお客さんは100パー信用して、もう遠方からでも物を見ずにでも頼んで来たりするわけやから。それ外注に振っとったらシャレにもならん(笑)。
やるたんびに勉強して
やるたんびに覚えて
ー 永井さんが得意な作業ってあるんです?
■ ない。
ー ハイ!?
■ ない、みんな嫌い(笑)。もうやるしかしょうがないもんで、時間が許す限り。
ー 待ったなし的な。
■ やるたんびに勉強して、やるたんびに覚えて、方法が分からなかったら調べて、試して、それでも分からんかったら聞いて。マッキーズのやつに溶接のこと聞いたりもするし。
ー 溶接をですか?
■ プロはやっぱプロやもん。あいつら溶接のプロやったし。外注さんでウチの製品作ってるマフラー屋さんとかそういうやつに機械の設定とか教えてもらうときもあるし。だけど実際やるのは100パー自分でやる。知識は吸収するけど別に頼みはしない。
今後オリジナルパーツは
どんどん増えていくイメージ
ー 今度はケンズファクトリーUSAについて教えてください。拠点はどこにあるんです?
■ LAのロングビーチ。いまメインでやってるのはドラッグスペシャリティーとかに商品を卸すこと。あとはJ&Pサイクル、世界各国のディーラーさんにパーツを出す。まあちょこちょこリテール(小売り)もあるけどパーツ販売が主。
ー パーツは今後どんどん増えていくイメージですか?
■ どんどん増えていくイメージ。
ー 何かイメージするカタチってあるんです? オリジナルパーツでの今後の展開。
■ 目指すはアレンネス。追い抜けローランドサンズ。
ー オオッツ!(笑)
■ ふっ(笑)。目指せ追い抜けやから。別にフィフティフィフティやとは思ってないからええやろ(笑)。
ー いや、別に思ってても良いんじゃないですか(笑)。
■ 一応ビジョンです。いろんな意味でね。目指せアレンネスというのは物とかバイクだけじゃなくて、やっぱり業界の立ち位置。それからその周りに集まってくる人の人間性とか、そういうのを全部含めて。
ー 永井さんのこれまでの流れを聞くと凄くスマートな印象なんですけど、これまでに大きな挫折とかは?
■ 挫折なんてしょっちゅうや。
ー ホントですか。
■ そんなのしょっちゅうあるやろな。
ー どんな?
■ わかんない(笑)。
ー えっ!? じゃあないんじゃないですか(笑)。
ショーをもらうためではなく
プロモートするため
ー これまで海外のカスタムショーに出展して数多くのアワードを取ってますが、その辺はホームページなどに載ってませんよね。
■ ああ、なんか仰々しくやってないかもしれん。俺様俺様やってないかもしれん。
ー ケンズは国内のカスタムショップの中でも海外との距離が近いイメージなんですけど、よく行かれるんです?
■ 昔からよく行ってて、大阪のテイクにいる時もちょこちょこ行ってた。で、自分でネスとかPM(performance machine)行って取引の口座開けて帰って来たりしてた。新規取引の。今みたいにメールが無いからあの頃はだいたい直接行って、ディーラーアプリケーションをもらってそれを書いて渡す。で、また手紙でやり取りするというのが当たり前やった。
ー そうした苦労があって今があるわけですね。海外のカスタムショーには今後も出展していく予定ですよね?
■ アメリカ国内での話は向こうに現地法人があるからこっちから海外のショーに行くというスタンスではない。バイクは日本で作ってアメリカに送ってるけども、ショーに出すのはショーをもらうためではなくて、自分のところをプロモートするため。
ー アワード狙いではなく宣伝するための出展だと。
■ それがショーに行く一番の目的だから、それに沿うようなバイクを作るのが仕事。だから変わったバイクを作る、オールドスクールっぽいエンジンでやるっていうことは俺にとってなんのメリットもないし、やる意味がない。常に一番新しい自分の商品を付けて宣伝出来て、なおかつそれが立派なカスタムバイクになってる必要がある。いまバイク作ってるのはそういう感じなんや。
ー 旧車人気が衰えない日本のシーンとはまた違った動きなんですね。
■ 一生懸命バイク作ってるのにそうじゃないとなんの意味もなさん。ナックルのロングフォークのチョッパーを作るのにスプリンガーを使って、昔のハブを用意してきて、「すげえーすげえー、ベストオブショー」って言われても意味ゼロ(笑)。
ー 海外で戦うとなると。
■ アホかって言われて終わりやもんね。そうなるよ。そうなるって。例えばそのナックルを持ってパーツのトレードショーに行く。そこで、「どう見て俺の最新バイク」、ってみんな新商品の品定めに来てるところで何にも付いてないただの古いチョッパーを飾ってもダメ。分かるやろなんとなく意味は。
カスタムは
楽しくて辛いもの
ー では、今後の展望があれば是非教えてもらいたいんですけど。
■ まあ、ぼちぼちと。死なん程度に(笑)。
ー あらら(笑)。
■ 来年は多分ロッドショー(※横浜ホットロッドカスタムショー)に車を出す。
ー えっ、車ですか!?
■ マジや。もうスタートしちゃったんや。ちょっと変わった車なんやけど。
ー 現状どの辺まで話せるんですか? ベース車とか。
■ ベース車? 聞いたら笑うからやめとこ。
ー 意外過ぎて一気にテンションが(笑)。永井さんにとってカスタムって?
■ いや、あの、楽しい辛い仕事。
ー やめられないもの。
■ そう。
ー 手足が動く限りは引退もしない。
■ なにすんねん、引退して(笑)。
KEN’S FACTORY