石井商店
石井智規 Tomoki Ishii
INTERVIEW
April 3rd, 2023
職業、『車検代行業』。主に全国のハーレーショップからの依頼を受けて、そのショップに代わって車検を行う専門業者だ。店主の石井さんの言葉を借りれば、「皆さんの手間を省くバイク業界の便利屋のようなもの」である。
創業は2015年で、文字通り日本中のショップを周り、毎月の走行距離は軽く8000km~1万kmをマーク。メルセデスのスプリンターで依頼主の所までおもむき、大切なバイクを預かり業務を全うした後に、再度客人の元まで足を運んで送り戻している。
車両の引き上げから納車までをワンストップで請け負う同店は、各オーナーのオンリーワンを運ぶのにふさわしい王者メルセデスでの運搬も美点だが、何より、それらを任せるに値する店主の人柄がすべて。彼だったら大丈夫。そんな評価を、目の肥えた玄人衆から集める叩き上げである。
全国のプロフェッショナルに頼られる男とはいったいどんな人なのか。その人物像に迫ってみれば、なるほど、やはり人間味の炸裂した男前であった。
お客さんに代わって
車検を受ける仕事です
ー まず、『車検代行業』、車検屋さんってどんな仕事をするのか教えてもらえますか?
■ 現状だとお客さんはハーレー屋さんバイク屋さんなので、そのバイク屋さんに来たお客さんの車両の車検を、そのバイク屋さんに代わって代行してます。で引き上げとか納車のサービスもやっているというのが一番のメインですね。
ー 一般のお客さんもやるんです?
■ はい。一般のお客さんもご自宅まで引き上げに行って車検取得します。それに付随する整備も必要であればおこなって納車までするっていうサービスがほとんどですね。
大学生から始めた
バイク屋のアルバイト
ー なるほど、理解しました。では石井さんのバックグラウンドを知りたいんですけど。
■ 元々は長野県の伊那出身で、大学でこっちに来てます。神奈川県の川崎ですね。
ー 小さい頃からバイクに興味はあったんですか?
■ 15、6歳からです。近所の書店にあったイージーライダースの無料のカタログを見てカッコいいなって。でもバイクに乗り出したのは大学生になってからなので18、19ぐらいですかね。それまでずーっと原付です。初めてのバイクはシャドー400でした。
ー アメリカンにヤラれた口だ。でその後はどんなバイクを?
■ シャドー400からバルカン400。それをさんざんずーっといろんな形に変えながら、フロントブレーキレス、ウインカーレス、スーサイドにしたりして乗ってました。
ー スーサイドまでやってるところが良いですね。ちなみに東京にあるアメリカンモータースのお客さんだったとか?
■ そうです。そこで買って入りびたりになって、そんなに来るんならもうウチで働きなさいと言われて。いいんですか!なんて(笑)。大学行きつつです。ずーっとそこから授業も出ずにアルバイトしてました。
ー その後はバイク業界にまっしぐらですか?
■ いえ、じゃあ大学を卒業します。それで日産の新車営業をやりました。ディーラーマンです。それを1年半ぐらいやって、またアメリカンモータースに戻りました(笑)。
ー 好きですねそこ(笑)。戻るだけの魅力があったと?
■ 魅力というよりは日産辞めてもう地元に帰ろうかなと。うだつが上がらないと。ピンとこなかったんです。
ー 肌に合わなかったと。
■ もう入って1週間で辞めたかったですね。早く店長になるにはどうすれば良いですかって店長に聞いたら40歳以下はいねえって。それで辞めようと思いました(笑)。その中で地元帰ろうとアメリカンモータースの社長に話をしに行ったら怒られて、明日からウチに来なさいと。
ー じゃあ石井さんの中では社長の存在というのは大きいですね。
■ かなり大きいですね。あの人に頭あがんないですね(笑)。いまだに「石井君車検あるぞー」なんて呼んでもらって仕事をやらせてもらってます。
バイク屋から
車検代行への転機
ー じゃあアメリカンモータースに戻ってからは?
■ 1年ぐらい働いてからそこの外注先の車検屋さんで働くようになりました。4年半ぐらいでしたかね。
ー なんでまた業種違いの車検屋だったんです? もしやるにしても普通他のバイクショップとかだと思うんですけど。
■ なんででしょう。とても輝いて見えたんですね。でもいざ働くと大変な仕事だったんできついとかは思わないようにしてました。思うときつくなるんで(笑)。
スタートはまさかの
車がない車検屋さん
ー メンタルやられるやつですそれ。で、4年半後に独立すると?
■ はい。まず仮に自分でやった場合の試算とか出してみるんですよ。例えば5万円10万円とかの売上だったとして、じゃああとは居酒屋さんで深夜バイトすれば良いかとか。で試算を出して独立の決心をしてから半年ぐらいで辞めたんですかね。でももう最初は本当にカツカツで。まず車がないでしたから。
ー 車がない車検屋さんというのはなかなかトリッキーです(笑)。
■ はい(笑)。最初スクーターしかないので、仕事をくれるバイク屋さんが用意してくれたり、あとはアメリカンモータースの社長にハイエース貸してください、レンタカー代払いますからってことで借りに行ってました。でもホントになんとかかんとかですね。よく生きてたなとは思います。
ー その時家賃とかは払えてたんです?
■ 家賃は三茶(東京都三軒茶屋)に住んでた頃はルームシェアだったのでかろうじてです。ただすごいラッキーだったのが、前の車検屋を辞める時にタクシーが僕の原付に突っ込んできたんでそれで30万円ぐらいですね(笑)。
ー ラッキーではないですけど(笑)。
■ それももちろんぴゅーって無くなりましたけど。まずそのお金でトラックを10万円で買ったんですけどオーバーヒートして終了。わずか10日間でした(笑)。でその残りのお金を使って府中に引っ越しをして。築45年の木造平屋でもう風が吹くだけでガタガタッ!って家が揺れるぐらいのところでした。
ー まあそんなこんなで仕事も軌道に乗り出していって?
■ 決して軌道に乗ってはいなかったですけど、ちょこちょこ車がないと困るなあってとこまでは来てましたね。でもなんとか10万円で買ったトラックもすぐ潰れてしまったので、前勤めてた日産の時の同期に電話してキャラバンが欲しいと。
ー おお、かつての縁が活きてくるわけですね。
■ でもお金もない。だから必ずローンだと。そうなると普通だとローンが通る可能性は低かったんですけど、その仲間がお願いしてくれてたまたま通ったんです。で新車のキャラバンをゲットしたと。
バイクを積んで走る
仕事と自分への肯定
ー 普段仕事のルーティン的にはどういう動きなんです?
■ 月曜から金曜までは車検場ベースですね。車検場って役所と同じなので月から金までの平日が開いてる。なのでそれに合わせて車検を通す業務ですよね。でその金曜日の分が終わってから遠方に出発って感じです。金曜の夕方から土日で長距離を走ると。
ー 月から金はこっちの東京近辺がベースなんですね。年がら年中ずーっと運転してるイメージがありました。
■ 長距離は週末です。でもここ近場でも毎日200kmとか走ってるんで、月に8000から1万kmぐらいですか。ずーっと乗ってはいますね。
ー 車運転するのが好きなんです?
■ 好きです。でもバイクを積んでですね。例えばセダンでびゅーん!とかは全然楽しくないです。
ー なんかそれって好きな子を乗せて走る感覚とかと一緒なんですかね? ちょっと分からないですけど。
■ えーっとですね……すぐ答えが出ないんですけど、結局まず生きていくために必死だったからバイクを積んで走ってると肯定されるんですよね。仕事をしてると。
ー おっやばいな。ちょっとちゃんと座り直します。
■ (笑)。そこがベースですね。だから僕がこれに何も積まないで走ってる時はあんまり楽しくないです。自分を肯定できないから。あくまで仕事で走ってる、運賃ももらっている、それに付随する車検もある。それで走るから肯定できるんですよね。だから楽しい。たぶん。
眠くなったら
豆を食べるべし
ー 僕も距離走る時があるんで教えて欲しいんですけど、運転してると何しても眠くなる時ってあるじゃないですか。そういう時はどうしてます?
■ 僕は何かを食べます。
ー 食べたら眠くなりません?
■ あっ食べてる間が眠くならないので食べ続けます。
ー (爆)。
■ だから菓子パンとかダメですよね。何個も食べれないし時間持たないんで。
ー 食べ続ければ眠くならないと?
■ ならないです。噛んでれば。だからナッツとか山ほど入ってるせんべいとか。食べてる間だけは大丈夫です。無くなっちゃうと眠くなります。
ー じゃあ全国の長距離ドライバーの読者に伝えるとしたら眠くなったら何か食べろと(笑)。
■ 食べろと。豆を食べろと(笑)。
ー ちなみに今まで最長何kmをノンストップで走ったことがあります?
■ そうなるとやっぱ東京-熊本一撃ですかね。広島手前で給油だけしてそのまま熊本です。ひゅっ!て。でもその当時はハイエースとかキャラバンだったんでこのスプリンターだったらもうちょっと余裕で行けます。
ー 帰りはさすがに寝て帰ってきますよね?
■ とにかく出て、どこかで限界迎えて寝るみたいな。でもそれは若い時ですよ。いまそんな無茶な走り方しませんから、ほんと事故ったらまずいんで。夜中も1時2時までしか走らないようにしてます。
ー 大切なものを預かってるわけですから。
■ そうですね。
原動力は
その人種が好き
ー では話は変わって、石井商店ならではの特長ってどこだと思います?
■ 一番は箱車なので、お客さんのところに引き上げに行く前提ですけど、輸送中の雨でも大丈夫なのと、他の人にあまり見られないという部分です。あとは引き上げと納車をやりますから自宅に居てくれればいいですよというのが一番ですかね。まあ別に誰でも出来ますけど、そこがウチのオススメポイントです。
ー 車検仕事のやりがいってどんな所です?
■ これは個人的な感情ですけど、基本的にハーレー屋さんカスタム屋さんっていう人種が好きなんです。かといって僕はバイクは作れない。じゃあ何でコミュニケーションを取ったり近づいていくのかってなった時の車検なんです。ツールとしての車検。だから頑張れるというのがありますね。
ー よく分かります。確かに人種的に光ってます。
■ 各地にいろんな面白いバイク屋さんがあって、そこに半年ぶりに行くとするじゃないですか。この半年間どうでした?って。するとその土地土地にストーリーがあっていろんな話を聞けるんですよね。だからそれを聞きに行ってるだけです。何もないと行けないけどそこに車検があるから行けるんです。
きっと誰もやらない
惚れ込んだ車検代行業
ー 車検業って相手の為に何かをして対価をもらう仕事じゃないですか。この人のために何かをするっていう気質は昔から持ってたものです?
■ なんなんですかね。そういわれると……、あー意外と難しいですね。でも結局お金を追ってないなと思います自分で。お金追っていればわざわざこんな高い車買わないんで。この1/3ぐらいの値段のキャラバンやハイエースでずーっとやって、目立たないようにしてお金だけ貯めてとかも出来ますから。
ー 確かに。こういうハイグレードの箱車を用意して、お客さんに安心してバイクを預けてもらうという姿勢がすべてを語ってます。
■ とか言っておきながら出費が大き過ぎてお金のために動かないといけない時ももちろんありますけどね(笑)。
ー でも結局行き着くところは、この仕事は食べていくためだけど、大前提として好きでしょうがないと?
■ ああそれですね。だって他の人にこの仕事やってと言っても誰もやらないと思います。皆さん大変でキツイって言うんで。僕はさっきも言ったように前の丁稚の頃からキツイっていう感情を捨ててますから。
ー 簡単に言うけどかなりのこと言ってますよ(笑)。
■ はい(笑)。自分の精神が破壊されないようにするための手法として、つらくない。お腹はすいてないみたいな感じですね。お腹がすいたと思うからつらい。じゃあすいたと思わないようにしようと1週間水とかでやってましたから。お金が無さ過ぎて。車検場の水飲んでましたよずっと。
ー お金がなさ過ぎて!? その話ハード過ぎませんか。
■ そこまでいくとプチ断食みたいになってくるんで頭は冴えてくるんです(笑)。1週間ぐらいだったら体も別におかしくならないですし。頭の回転が速くなってく感じですね。バッキリです。
ー 研ぎ澄まされていく?
■ そうですそうです。ビンビンです。
ー なるほど。今日はいいお話がたっぷり聞けました。ちなみに最後になんかこれだけは言っておきたい的なことがもしあればお願いします。
■ えっ良いんですか。仕事ください! お仕事ください! 押忍(笑)!
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