ブートレグ BOOTLEG 菊原陽二 Yoji Kikuharaのインタビュー

BOOTLEG

菊原陽二 Yoji Kikuhara

July 17th, 2022

リアリティのある不良性を匂わせたチョッパーとクラブスタイルを両輪とし、地元長野から東京へ移り住み、長い下積み期間を経て今カスタムシーンを快走するショップ、『ブートレグ』。

代表の菊原陽二はかつて、「500円玉2枚を擦り合わせることさえできない」ほどの赤貧(せきひん)に陥っても、ビルダーであり続けることを諦めなかった生え抜きの二輪狂だ。サイドバルブからツインカムまでを幅広く取り扱い、これまで持ち前のファブリケーションスキルでクライアントの期待を上回るカスタムを常に作り上げてきた。

けれど昨今、菊原さんのその辣腕を振るった新たなフルスクラッチを目にする機会は意外と少ない。一体、そこにはどんな心境の変化があったのか。その答えを探ると、修行時代に苦労に苦労を重ねた氏だからこそ辿り着いた、周りの人間の笑顔を取りこぼさぬ親和の世界観が広がっていた。

(写真・文/馬場啓介)

ブートレグ BOOTLEG 菊原陽二 Yoji Kikuharaのインタビュー

物心ついた時から
バイク、バイク、バイク

ー まず菊原さんがバイクに興味を持ったキッカケというのは?
俺、小さいときからバイクが好きなんですよね。物心付いたら皆ミニカーとか行くじゃないですか、まず車から入ると思うんですよ。俺はなんでか分からないですけど、小さい頃からバイクだったんですよね。
ー おもちゃも四輪よりも二輪で。
もうバイクです、バイク。何かって言えばバイクに目が行って。で、ウチすげぇ田舎なんで、小学校4年か5年のときに親戚のオジさんからカブもらって、近所で乗ったりしてましたね。
ブートレグ BOOTLEG 菊原陽二 Yoji Kikuharaのインタビュー
ー アメリカばりに自由ですね(笑)。
俺、トランクス一丁とかで山道走ったりしてたんで、転んでマフラーでここ(※ふくらはぎを指差す)ベロンってめくっちゃって。水泳大会のときによく分かんないババアに「あんた何そんな汚い足でプール入ってんの!」って怒られたりしましたね。
ー ひどいババアですね(笑)。田舎って、出身はどちらなんですか?
長野です、長野のもうホント山の中。隣の家がずいぶん向こうにあるみたいな感じの。で、自分でカブいじって乗り回してましたね。
ー 「自分でいじって」って言うのは周りにバイク屋もないし?
ないですないです、だから自分でマフラー外してエンジンかけてみたりとか。
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ー カスタムするっていう概念はどこから入ってきたんですか?
カスタムって意識はなかったですよ。とりあえずバイクが好きなんで『月刊オートバイ』を親に買ってもらってて、それは読んでましたけどね。俺らの子供の頃の漫画なんか、暴走族系のやつも多かったですよね。
ー 族車にインスパイアされて。
よく分かんないけど、とりあえず切ってみようみたいな。バイクはもう生まれたときからずっと好きです。ある程度の歳になるまで車に全く興味ないくらい、バイク、バイク、バイクでしたよ。
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地元じゃビニ本扱いの
2000円の雑誌がバイブル

ー ハーレーを知ったのは?
ちょっと大きくなったら『イージーライダースマガジン』とか買ってたんで。地元じゃビニ本扱いでしたけどね、お姉ちゃんのオッパイが出てるんで(笑)。しかもあんなペラペラなのに、当時2000円くらいしたんじゃないかなぁ。
ー そういった向こうのチョッパーカルチャーに影響されて。
俺はとにかくロングフォークが好きで。スプリンガーのロングフォークじゃないとハーレーじゃないって思っちゃうくらい。
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ー 理屈抜きにそれがカッコいいと。
そうなんです。でもモンキーとか小さいのも好きだし、四発もツーストもスクーターも好きだし、基本的にエンジンとホイールがあれば大好きです(笑)。飛行機とか船はあんまり興味ないですね。
ー もうバイク全般が好きなんですね。
だから地元にいた頃はどんなバイクでもチャンスがあればもらってきたり買ってきたり。動かないものをいじって直して動くようにするっていうのが好きで。動くようになったら満足して、それを売って次のバイクを手に入れての繰り返しでしたね。
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億万長者が無理なら
バイク屋になるしかない

ー じゃあもう色んなバイクを触ってきたわけですね。
でも自分だけのキャパシティだと間に合わないんですよ。例えばハーレーで言えばスポーツスターもカッコよければアーリーもカッコいいわけで。チョッパーもよければボバーもいいってなると、自分一人だとそんな買えないじゃないですか。
ー そこにハーレーだけじゃなくて国産も入ってくるわけですもんね。
もう追い付かないですよ。で、こんなんだったらバイク屋になるしかないってことで、この道を目指したんです。そうすれば人のも触れるし、乗れるし、作れますから。自分一人だと億万長者にでもならないと絶対ムリじゃないですか。
ー バイク屋になる修行はどこから始まったんですか?
まず俺、東京モード学園(※東京新宿のファッション専門学校)に行ってたんです。
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ー あ、服も好きだったんですね。
いや服も好きですけど、そういうんじゃなくて。俺、元々は中学出たら土方やろうと思ってたんです。そしたら親が「高校くらいは出ろ」と。で、地元のアルファベットが書けなくても入れる高校に行って。
ー アルファベット(笑)。
で、卒業したら土方になろうと思ってたら今度は「お前みたいなもんは世の中を知れ」と。「家から出てけ」って話になって、で「出てくのはいいけど何すっかな」ってなったときに専門学校とかの進路のパンフレットがあって、それ見てたら『試験なし、面接のみ』って書いてる学校があって、それがモード学園だったんです(笑)。
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ー そこからどうバイク関係に?
モード学園ってバイク通学禁止なんですけど俺はバイクで通ってて、その通学途中に今はなきカスタム屋があったんですよ。で、そこに『STAFF WANTED』って書いてあったんで「おぉっ!」って。
ー もう即行で飛び込んで。
そしたら「いや今は人足りてる」って(笑)。でもそのときは国産に乗ってたんですけど、ショベルが欲しくてちょこちょこ通ってたんですよ。エンジン掛けさせてもらったり、跨らせてもらったりしてて。
ー そうこうしてたら声が掛かって?
いや、そこの先にまた別の店があったんですよ。で、そこもスタッフを募集してたんで行ったら取ってくれて。
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期待に心を踊らせ
飛び込んだカスタム業界

ー では第二希望的なその店から始まったんですね。
そうなんです。でもしばらく働いてて「あれ? ここ俺が思ってるハーレー屋じゃねぇな……」ってなってきて。切った張ったしないし、チョッパーは一台もないし。
ー これは雰囲気違うなと(笑)。
でも入ったからにはちゃんと仕事しないとなって思って。しばらく働いてたんですけど、ある日最初に行きたかった店の店長から「今なら取れるよ」って電話が掛かってきたんで「マジすか!?」って言ってすぐに辞めて。
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ー 願ってもない展開ですね。
で、そこに入ったんですけど、まぁ色々ありまして(苦笑)。
ー なんですか色々って。
3年半くらいで店がなくなっちゃったんですね。飛んだってやつです(笑)。
ー で、そこがなくなってからは。
その店がハッシュボールの成田さん(※バイカーシーンのカリスマ的ロックバンドのボーカル兼車検業代表)に車検を出してたんですよ。で、一番若い俺が車検場までバイク持って行ったりしてて、成田さんと交流もあって仲良くさせてもらってたんですね。で、成田さんは顔が広いんで、その紹介で次のショップに行きました。
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一筋縄ではいかない
独立までの険しい道のり

ー そこはどんなショップだったんです?
俺も「ここでは勉強できるな」って思って行ったんですけど……(苦笑)。
ー いろいろあったんですね。じゃあ最終的には喧嘩別れみたいになって?
いや、そこは普通に「辞めます」って。で、その後に成田さんの車検の手伝いをしばらくしてました。でもそもそもバイク屋をやりたいんで、その話をしたら成田さんが「じゃあ俺がバイク屋出すから、そこで働いてよ」ってなって。
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ー それがカスタムショップの『ファントムゲート』ですね。
そう、成田さんと俺の二人で始めて。ファントムゲートを7年8年やって、独立して今のブートレグを立ち上げたって流れですね。成田さんのお陰で色んな有名な人と知り合えたり地方の業者さんと繋がったりで、今の商売の基盤はそこで作らせてもらったって感じです。
ー 色々乗り越えた結果の今のブートレグですね。
独立してからがある意味一番楽ですね。金がないのも時間がないのも苦労するのも、全部自分のせいですから。
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根っこにひそむ
言いづらい共通項

ー ブートレグは開店当初からチョッパーとクラブスタイルで?
そうですね、ウチはMC(モーターサイクルクラブ)の繋がりもあるからラバーマウント系も流行る前からやってますね。FXDXTとかFXRとかめちゃくちゃ多かったですよ。今でこそ人気があって高くなってますけど、当時はホントに不人気で安かったですね。
ー 日本で流行る前からクラブスタイルはやってたんですね。
もうずっとですね、俺も金がない頃にFXR乗ってましたし。最初の修行時代にショベルは買ったんですけど、その後お金に苦しくなって手放しちゃって。
ブートレグ BOOTLEG 菊原陽二 Yoji Kikuharaのインタビュー
ー カスタムとしてはチョッパーとクラブスタイルと分けて考えてますか?
分けてないですね、何も。ただジェントルマンじゃないバイクが好きです。
ー 悪そうなってことですね(笑)。
まぁそう言うとカッコつけてるみたいになるんで言いづらいんですけど。多少なりともそういう匂いがするのが好きです。それが僕のバイクの根っこなんで。昔から二輪ってそういう匂いがするものじゃないですか。
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芽生えた意識の変化
ビルダーから経営者へ

ー カスタムを長くやってきて変わってきた部分ってありますか?
むしろ最近は経営に一生懸命になっちゃって、フルカスタムとかはできてないです。よく言われますよ、「ビルダーじゃなくて経営者になっちゃいましたね」って(笑)。でも俺は社長なんで、それでいいんです。例えば俺がビルダーとして賞を獲っても、それは一時的なものでしかないんですよ。
ブートレグ BOOTLEG 菊原陽二 Yoji Kikuharaのインタビュー
ー なるほど。
会社も従業員も家族も潤うかと言ったらそうでもないわけで。ある意味、自己満でしかないんですよフルカスタムは。俺は店の色を出すために、自分の好きなスタイルを推してはいきますけど。
ー もう自分だけの店ではないと。
会社なんで。これが家族もいなくて一人でやってたら、賞を狙いにいってフルカスタムを作ってるかもしれないですけど。今、俺がそんなことしたら店が潰れちゃいますから。それで一番迷惑を被るのはエンドのお客さんですからね。
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ー 今は社長業に専念する時期ってことですね。
今はいい車両があったら仕入れて一生懸命それを売って、従業員にボーナスでも出してやって、子供に美味しいもんを買ってあげるってことをしたいですね。スタッフが成長して、俺目当てじゃなくそのスタッフ目当てでお客さんが来てくれるようになると俺の時間もできてくるんで。
ー その発想は懐が深いです。
何年先になるか分かんないですけど、そうなったらまたフルカスタムも作りたいですね。最終的にはブートレグ=菊原って感じじゃなくしたいんです。
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巻き込んで作り上げる
ストレスフリーの環境

ー ハーレー以外にも色々趣味を持ってそうですが。
俺はアメ車も持ってますし、植物も好きで、魚を飼いたくて事務所にでかい水槽もあります。国産二輪も持ってますね。普通だったら隠すところだと思うんです。「あそこ凄い儲かってる」とか言われちゃうんで。
ー 妬みってやつですね。
俺はお金そのものには興味がないんです。お金は誰が持ってても1円だし100円だし1000円なんですよ。自分が好きなものだったり、好きな人のところのものを手に入れるためのツールなだけであって。
ブートレグ BOOTLEG 菊原陽二 Yoji Kikuharaのインタビュー
ー お金なんてものは貯め込んでも仕方がないと。
こうやって色んな趣味をおおっぴらにしているのも「どうせだったら人生楽しんだ方がいいですよ」っていうのを見せたいというか。皆、遠慮しがちなので。多少余裕があるんだったら、絵でもいいですし植物でもいいですし何だっていいんです。それが自分が好きな業界を盛り上げることにも繋がるじゃないですか。
ー これからハーレー業界に入ろうっていう若い子たちに夢を見せるって気持ちは?
夢とまではいかないですけど、やる気さえあればこれくらいはできるよってのはありますね。フェラーリだランボルギーニだ豪邸だってのはムリですけど。趣味を満喫するくらいのことならできるんで、そういうのをちょっとでも知ってもらえたらなって。
ブートレグ BOOTLEG 菊原陽二 Yoji Kikuharaのインタビュー
ー なるほど視野が広いですね。
お金使うにしても、まずはお客さんのところからってのが俺の中のポリシーで。お客さんが商売してるんだったら、まずそこにお金を落としたいんで。だから俺、私服なんかお客さんのブランド以外買ったことないですもん(笑)。
ー 自分だけでなく従業員もお客さんも良くなってほしいと。
そりゃそうですよ。「金がない金がない。社長ばっかりいいですね」って言われてたんじゃ面白くないですもん(笑)。職場が気持ち良くないと仕事もはかどらないですし。せっかく自分が好きなことを仕事にしてるのに、皆ストレスなくやりたいじゃないですか。

BOOTLEG

ブートレグ BOOTLEGのショップ外観
住所 埼玉県川口市東領家4-19-4(Google MAPを開く
電話 048-452-8328
FAX 048-452-8328
SHOP BOOTLEGのショップ紹介
営業時間 10:00 ~ 20:00
定休日 月曜日