ワーカーの肖像　8th　‐ EVILACT ‐

走ることを一義とした
二輪狂が導き出す最適解

ヨコハマ。この地が単なる異国情緒溢れる観光都市ではなく、カスタムカルチャーの一大震源地として認識されていることは周知だろう。

そのヨコハマにローカルとして根差し、長きに渡りチョッパーシーンを牽引し続けてきた一人の二輪狂がいる。山本ミナト。ライディングを前提に練り上げられたデザインと、洗練された佇まいで人気を博すバイカーズブランド『イーブルアクト』の主幹である。

ファッションカルチャーを起点としたブランドとは一線を画す、バイクを軸に据えた骨太な服作りが我々モーターヘッドの琴線に触れるのは自明のこと。どうしようもなくバイクが好き。そんな純粋さが言動の端々から漏れ出る氏の、心に宿る原風景を紐解いてみたい。

（写真／山田健太郎　文／馬場啓介）

地平線に向かって果てしなく延びる、土埃舞う荒野の一本道。チョッパーと耳にして連想するのはそうしたワイルドな光景かも知れない。しかしここには、ビルの谷間に轟音を反響させて走り抜ける、都会の喧騒が似合う世界観がある。

代表の山本ミナトさんはバイクを取り巻くカルチャーに造詣が深く、その上澄みを具現化した愛機の数々は常にカスタムシーンにインパクトを与えてきた。そこには本質をとらえ、走ることを一義に置く彼だからこそのリアリティが色濃く漂う。

「もう何十年も前のことだけど、イージーライダーよりも断然マルボロマンに惹かれたんだ。それからヘルズエンジェルス・フォーエバーのニューヨークのシーン。高層ビルの狭間に佇むハーレーっていう図式が、自分の中にあった価値観と共鳴したんだろうね」

「バイクを取り巻く世界の中で、名だたるビルダーから身近な先輩まで、憧れるヒーロー達の背中を追ってここまで走ってこられた。自分がやっていることはただの洋服屋と言うよりも、そうしたカルチャーを伝えていく一環なんだと思ってる」

イーブルアクトにはふたつのスピンオフ・ブランドが備わっている。細分化するバイクシーンを見据え、気軽に着られることを旨とした『グッドスピード・イクイップメント』。そしてライディングに特化したオプティカルを専門とする『イーブルアクト・アイウェア』だ。

ミナトさんがプロデュースするカスタムマシンは、どれもが与えられたコンセプトに応じた必然の組み合わせの上に成り立っている。だからこそ、そこに加味されたオリジナリティが一際強く光を放つのだが、イーブルアクトの服作りにおいても同じことが行われている。

何が必要で、何が必要でないか。自身が愛機達と過ごした緊密な時間を経験則として導き出した最適解。それは手掛けるいずれのブランドのプロダクションにも共通している。そのためミナトさんは絶対の自信を持ってこう語る。「イーブルアクトはファンを裏切らない」。

「バイカーブランドと、ファッションから始まったブランドは決定的に違う」。そう言い切る根底には、日常的にバイクに乗らない者がバイカーの求める物を作れるわけがないという信条がある。それは、チョッパーシーンの前線を走り続けてきた男の矜持とも言えるもの。

時には都会の密集したトラフィックを縫うように、また時には遠方の友を訪ねてひたすら高速道路を、ミナトさんは雨でも嵐でもただただバイクを走らせる。そうして肌身に蓄えた経験値をフィードバックしたプロダクツには、圧倒的な説得力がおのずと宿っている。

大切なのは、バイクに乗るという行為が仕事になっていないということ。ともすればこの業界に生きる人達にとって、それは義務になりやすい。悲しいけれど情熱を失い、ただスタイルとしてポーズとしてバイクを走らせているケースの如何に多いことか。

しかし彼はいつだってそんなポーザーらを一蹴し、バイクという自立すら出来ない不安定な乗り物を操ることに無上の喜びを見出し続けている。こうした、イーブルアクトの服やギアに心が沸き立つのは、その無邪気なまでの純粋さが透けて見えるからに他ならない。

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