ワーカーの肖像　5th　- US –

Hajime Uemura

FEATURE

August 31st, 2020

古着やインポート、オリジナルプロダクトまでを扱うアパレルショップ『US（アス）』。2000年の起動以来、国内ファッションの中心地東京に居を構え、ことさら代謝の激しい業界においてもひとかどの威光を放ち続けている。

代表の植村さんはかつて高校を中退した後にイギリスとカナダに移り住み、約5年間の海外生活を経験。そこで既に掘り込み、はぐくんできた古着のルートは独立後に活かされ、米国と比べてまだ手垢にまみれてない良品をコンスタントに仕入れては同業者との差別化を計ってきた。

また、アメリカンカルチャーに魅せられてきた氏はその世界観をオリジナルアパレルにも投影し、物作りを展開。アパレルとバイクを軸に回り続けるその日常の生彩に、光を投げたい。

（写真／山田健太郎）

古着を柱にしつつもひとつのテリトリーに留まることなく、その枠を軽やかに超えたアパレルショップとしてインポートセレクトやオリジナルプロダクトを創出。US（アス）は他のショップとは明らかに違った毛色でアメリカの香気を伝道し続けている。

植村さんが古着に興味を持ったのは映画や音楽がきっかけだと言う。映画『アウトサイダー』や『ドラッグストア・カウボーイ』で完全にはまりこみ、当時中学生だった氏は地元の神奈川県藤沢の古着屋やアメリカンショップへと足を運んでいた。

「僕マットディロンが好きだったんですよ。だから彼が出てる映画を観ていった感じです。基本的にはジーパンにTシャツなんですけど、たまにレーヨンシャツを着たりしてなんか男くさくて格好良いんです。そこからですよね、服に興味を持ち出したのは」

5年の海外生活を経て帰国した後、国内最大手のセレクトショップに就職するもイメージと違い過ぎてわずか3ヶ月で退散。次にアメカジブームで人気を博した原宿のインポートセレクトショップに2年ほど身を置き、次第に独立の方向へと目が向いていった。

「原宿の店を辞めて3ヶ月ぐらいアメリカに放浪の旅に出ました。そのとき全米を回って、なんか自分で出来ないかなって思いながら洋服を買い付けたりしてたんです。だからまあ、そこから日本に戻って自分でやってみたって感じですね」

19から21歳までの3年間を過ごしたカナダでの買い付けルートが追い風となり、仕事は順調だった。結局カナダといってもアメリカと地続きで文化も全く一緒のその地には、まだ日本のバイヤーが手付かずのブルーオーシャンが望洋と広がっていた。

「いわゆるビンテージ物がいっぱいあって、カナダ人も日本人を相手にしたことが無かったから普通に安く売ってくれたんです。だからそこで発掘してましたね。もちろん古着だけじゃなくてカルチャーも好きだったからいろいろ刺激を受ける機会も多かったです」

特に氏が心を寄せるアメ車とハーレー。いつだって闊達にアイドリングを刻む’47年式ナックルヘッドは10年近く大切に保管していた各パーツを使って仕上げたもので、普段の足として通勤からツーリングまでに飛動。頬をなでる風がとろけるように具合が良い。

「通勤でも乗るしロングツーリングも全然行きます。最近は群馬の方まで走ったのかな。あと嫁さんが北陸出身なんでそこにもバイクで行きますし。でも子供が出来てからはなかなかですよね（笑）。長い距離は行けても年に2、3回になっちゃってます」

しかし年に一度もツーリングに行かない人の多さを思えば、それはやはり生粋だろう。高速を走るのはストレス解消と考えごとをするのにベストだと話す氏は、日々の緊張から解放してくれるツールのひとつとして無心にスロットルを開け続ける。

「何も頭の中に無くなるっていうか、単純にスカッとします。あの振動とスピードがあれば」。駆け抜けてきた日々の暮らしは瞬く間に後方へと流れ去り、まだ見ぬ未来があっという間に姿を現す。そのドラスティックな日常のほんのひととき、氏は唯一風の人となる。